スポーツ選手の競技パフォーマンス研究の第一人者としてトップアスリートへの科学的支援をおこなう日本体育大学教授・杉田正明さん。「健康を保つにはアスリートも一般の人もコンディショニングが非常に重要」「コンディショニングは人生を変える」と語る。コンディショニングとはいったい何か、アスリートではない一般人は具体的に何をすれば良いのか……。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<杉田正明さんプロフィール>
日本体育大学教授ハイパフォーマンスセンター長。日本のスポーツ界におけるコンディショニング研究の第一人者であり、東京・パリのオリンピックでは日本選手団の本部役員として科学的支援を行う。

本当に「体調管理」ができている人は4人に1人しかいない

━━人生が変わるコンディショニング術ということですが「人生が変わる」まで言っちゃいますか。

はい、確実に人生が変わると言えると思います。コンディショニングは、簡単に日本語にすると「体調管理術」です。

コンディショニングによって体調が良くなり体も軽くなると、たとえば良い出会いがあったり良い業績に繋がったりと、良い波及効果が生まれてきます。

━━「体調管理」となるとだいぶ身近な感じがしますね。

そうですね。体調管理というと、なんとなくみんな「自分はできている」と思いがちですが、実際に自分の体調を把握して管理できている人は4人に1人しかいないということが調査の結果で分かっています。

体調管理という言葉は分かっていても、何をどうすれば良いのかまではわかっていない人の方が多いってことですね。

基本的な生活習慣の徹底がコンディショニングの基本

━━先生がいう「体調管理」は、どこまでのものを求められてますか?

実はそんなに難しいことじゃないんですよ。

1日のなかで「食事をちゃんと食べる」「お風呂に入る」「歯を磨く」「ちゃんと睡眠を取る」「朝起きたら光を浴びる」。そういう基本的な生活習慣が重要なことなんです。

━━たしかに、ちゃんとした生活習慣ができてるかって言われたら「できてないかも……」と私も思っちゃいましたね。

だからこそ、トップアスリートが実際に行っているコンディショニングを一般の人にお伝えするために、私が今回呼ばれているのかなと思っています。

コンディショニングは「ライフパフォーマンス」を向上させる

━━私たちのような一般人が「コンディショニング術」と言われると、ちょっとハードルが高いなという気がするんですけれども……。

スポーツ選手は、自分自身にとって最高の競技や演技である「ハイパフォーマンス」を実現するために、日々トレーニングや休養に取り組みます。

そういったコンディショニング術は限られたトップアスリートだけのものではなくて、一般の方が毎日心身ともに元気に活動する力、つまり「ライフパフォーマンス」の向上にもそのまま応用できるんです。

仮眠装置に交代浴……オリンピック選手を支えたコンディショニング

━━アスリートはコンディショニングするためにどんなことを実践されているんですか? 

たとえば2024年のパリオリンピックでは、イギリスチームが仮眠が取れる特殊な装置を用意していました。冷たいお風呂と温かいお風呂に入る「交代浴」も各国力を入れていましたね。

オリンピックって最終的には直前の調整、つまり「リカバリー」が重要なんです。リカバリーがうまくいかないと、やっぱり勝てないんですよね。

まずは入浴や睡眠などの「休養」に力を入れるべき

━━アスリートのコンディショニングを一般人に勧めるとなると、先生はどういうところから進められますか?

やっぱり入浴や睡眠、お昼寝といった「休養」の部分が重要だと思います。

━━それこそ、大谷翔平選手はすごく睡眠を大事にしていますよね。あんなに大事にするんだって思いました。

調べてみますと、世界のレジェンドと呼ばれるいろいろな競技のアスリートは、睡眠時間が10〜12時間と総じて長いんです。

体を休めて回復させるだけじゃなくて、充電する。アスリートはそこまで考えて日々生活しています。

やっぱり眠れなくなるのが1番の悩みっていうんですよね。だから風呂の入り方とかも工夫していて。

━━寝る前のお風呂の入り方ですか。

はい。38度から40度ぐらいのお風呂に入って、自分が寝たい時間の90分前にお風呂から出る。そうすると体温がだんだん下がっていって、眠りやすくなるんですよね。

あとは、起きたら朝日を浴びることも大切です。体内時計がリセットされて、目のなかに光が入った14〜16時間後にメラトニンが出て眠りやすくなります。

十分な睡眠時間を確保して自分の「防衛体力」を上げよう

━━コンディショニングという観点では、我々一般人もアスリートも同じということですか。

はい、そうなんです。あと、一般の方がライフパフォーマンスを上げるためには、体力のなかでも「防衛体力」を上げることが大事になります。

━━「防衛体力」ですか?

体力には「行動体力」と「防衛体力」と2つあるんですね。「行動体力」は、積極的に運動したりスポーツをしたりするときの体力です。

一方で、もう1つの「防衛体力」っていうのは、たとえば風邪をひきにくい、暑いところでも寒いところでもパフォーマンスが発揮できるといった、外的な要因の変化に対して体がちゃんと適応できる体力を指します。

防衛体力がしっかり備わっていないと、行動体力が十分にあっても途中で体調不良になったり怪我をしたりしてしまいます。

━━防衛体力は、免疫とはまた違うんですか? 

まさに免疫です。たとえば睡眠時間別に風邪の発症率を調べた研究があるのですが、7時間以上寝ている人はだいたい15%ぐらいしか風邪を引かないんですけど、4時間程度しか寝ていない人は半分ぐらいが風邪を引いてます。

━━ええー、睡眠時間でそんなに違います?

そうなんです。睡眠時間が長い人の方がワクチンの効果も大きいという研究結果がありますので、睡眠時間というのは免疫力にとって重要な要素だと思います。

1日10分程度の運動でうつのリスクを下げられる

━━やっぱり睡眠や休養っていうのは必要なんですね。コンディショニングでほかにも重要なことはありますか?

やはり運動ですね。軽く運動するだけでうつが抑えられたという研究があります。

1週間で1〜2時間運動する人たちのうつの発症度合いを1としたとき、1週間で運動する時間がそれよりも短い人は、うつになるリスクがかなり高いです。

それから、1週間で1〜2時間運動する人と、それよりも長い時間運動する人のうつの発症度合いは、それほど変わらないんですよ。

━━運動をすればするほどメンタルヘルスに良い、というわけではない?

そうなんです。1週間で1〜2時間ってことは1日10分程度ですから、意外とハードルが低いですよね。たとえば通勤・通学時に1駅前で降りて歩いていくのも、運動になりますよ。

仕事を一生懸命やっていても、夜はお酒を飲んで睡眠時間が短いといった生活を送っていると、防衛体力がどんどん低下していくわけです。

━つまり、防衛体力は、自分で作ることもできればダウンさせちゃうこともあって、日々の休養と運動で防衛体力を高めておくことが重要ということですね。

おっしゃる通りです。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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