熱中症対策シリーズ、4回目のテーマは「体を冷やす新常識」。トップアスリートへの科学的支援をおこなう日本体育大学教授・杉田正明さんは「熱中症にならないためには身体冷却が重要だが、冷やしすぎには注意すべき」と語る。効果的に体を冷やすには、具体的にどうすれば良いのか…。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<杉田正明さんプロフィール>
日本体育大学教授ハイパフォーマンスセンター長。日本のスポーツ界におけるコンディショニング研究の第一人者であり、東京・パリのオリンピックでは日本選手団の本部役員として科学的支援を行う。

脱水の程度は「尿の色」で確認できる! 茶色の尿は要注意

━━今回のテーマは「体を冷やす新常識」ということですが、そもそも自分が脱水症かどうかってどのようにチェックしたらいいんでしょう。

脱水しているかしていないかは、尿の色である程度わかります。尿のカラーチャートが国際的に使われていて、体に十分水分が足りてるときの尿はレモネード色、脱水しているときの尿はりんごジュース色です。

最近は学校のトイレに尿のカラーチャートが貼ってあって、「これで脱水の状態を確認しましょう」と呼びかけているところもあります。

脱水気味のときには腎臓が調節して水分を出さないようにしているので、ある意味、腎臓がしっかり働いていることを確認できるチャートにもなっています。

あと、尿がオレンジ色や茶色になる場合、肝臓に何か異常があるかもしれません。

━━尿が茶色っぽくなる人もいるんですか。尿の色をチェックするってとても大事なことなんですね。

大事ですね。尿は毎日出るものですし、こまめに観察していただくと良いと思います。

アスリート界でも尿の分析で疲れ具合や脱水状態をチェックしている

━━先生の場合、アスリートのハイパフォーマンスをサポートするために、アスリートたちの尿も調べるということでしょうか。

はい。2010年のサッカーのワールドカップのときには標高が高い場所で合宿をおこなったのですが、標高が高いところは「バソプレシン」という利尿ホルモンが不安定になるので、尿が出やすいんですよ。口から蒸気も出るので、脱水しやすいんです。

なので毎朝27人の選手の尿を取って分析して、それで疲れ具合も把握していました。

━━ハイパフォーマンスを求めると、そういう部分にまで詳しくなるということですね。

そうですね。そのあと、暑さ対策の研究でマラソンや競歩の選手の尿も取って、どれぐらい脱水してるかチェックしたり「もうちょっと飲んでね」とアドバイスをしたりしました。

熱中症対策では「身体冷却」で深部体温を下げることが大切

━━熱中症対策で、水分補給以外に気をつけたほうが良いことは何かありますか。

「身体冷却」です。我々が熱中症になって倒れてしまうのは、深部の体温が上がりすぎて機能不全になるからなんですね。

だから、上がった体温をとにかく下げなきゃいけないんです。そのためには体の外と中の両方から冷却することが大事になります。

━━体の中から冷却するというのは、水分補給でしょうか。

そうです。あるいは氷を細かく砕いたものを飲むのも良いですね。

━━体の外から冷却するというのは、体をそのまま冷やすということですよね。

そうですね。熱中症で倒れた方を救護する場合には、脇の下・首・鼠径部など血管が太い部分をアイスパックで冷やしてあげるのが基本です。

━━熱中症の予防として冷やしたほうが良い体の部位というのは、やはり頭でしょうか。熱が出たときも頭を冷やしますし。

そうですね。頭は部位として熱に弱いんです。ですから、帽子をかぶって直射日光を防ぐっていうのはすごく大事です。でも、帽子をかぶると蒸れてしまうので結局プラスマイナス0なんですよね。

━━私の知ってる人で、暑いときに帽子の中に保冷剤を入れる人がいるって聞きました。

帽子の中に保冷剤を入れるのは正解です。マラソンや競歩の選手が、オリンピックやアジア大会などで同じことをやっています。

暑いときは手のひら・足の裏・頬を冷やすと熱中症予防になる

━━選手たちも実際にやっているんですね。個人的には、頭のほかに顔も冷やしたいです。

顔を冷やすのも正解ですね。体温が上がってきたときに動脈と静脈が開いて、手のひら・足の裏・頬から熱が出るんです。このような動脈と静脈の接合部分のことを、動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)といいます。

「顔を冷やしたい」っておっしゃったのは、頬の熱が出てるからですね。夏場に顔が赤くなる方がいますが、そういう方はおそらく頬からの熱放散が多いんだと思います。だから、冷たい飲み物で頬を冷やしてあげると良いです。

━━身体冷却するには、冷たい飲み物とかを手のひらで握りしめれば良いんですね。

そうです。身体冷却について、運動して深部体温を39.2度まで上げたあとに「何もしない場合」「首・わきの下・鼠径部を冷やした場合」「手のひら・足の裏・頬を冷やした場合」で30分間の体温の低下具合を見た研究のデータがあります。

その結果、一番体温が下がったのは「手のひら・足の裏・頬を冷やした場合」だったんです。

━━なんと。最近暑くなってきて、さまざまな体を冷やすグッズが出てきてますが、手のひらや足の裏を冷やすものってまだ出てきてない気がします。

そうですね。でも実は、東京オリンピックのときに手にはめて冷やせるグッズが開発されていて、今は市販もされているんですよ。

キンキンに冷やすぎると逆効果!身体冷却は10〜15度が良い

━━今は手にはめて冷やせるグッズまであるんですね。

そうなんです。そして身体冷却にはポイントが1つあります。それが「冷やす温度」。10度から15度が良いんですね。

━━え!? キンキンに冷えたやつじゃないんですか。

キンキンに冷えたものを当てると、体がびっくりして血管が収縮してしまって、痙攣が起きることもあるんです。逆効果になりかねないですね。

たとえば、冷凍庫に入れて凍らせた水のペットボトルだけだとダメなので、タオルかハンカチ1枚を巻いてから手や顔に当てるっていうやり方が良いと思います。ただし、倒れた人を蘇生するときは0度のもので良いです。

━━体のコンディショニングという観点では、冷やしすぎないことが大事なんですね。

背中からしっかり冷える!「着る冷蔵庫」と呼ばれる最新ウエア

━━保冷剤や凍らせたペットボトルのほかに体を冷却する方法って何かありますか。

ファン付きウエアや、特殊な冷却のジェルが入った「アイスベスト」などもありますね。アイスベストはオリンピックでも使われていて、マラソンや競歩ではレースの直前までプレクーリング(運動の前に意図的に体温を下げること)として着てるんですよ。

━━これから暑くなることを考えると、外で作業をする人たちだけでなく、一般の人も冷却グッズを着用した方がいいんでしょうか。

はい、着用した方がいいと思います。最新のウエアには、ファンが付いていて、さらに冷却もしてくれるものがあります。これがそのウエアですね。

ファンが付いていて、体を冷やす冷却プレートも5つ付いています。「着る冷蔵庫」と言われているそうですよ。

━━冷却プレートの金属の部分によって、肋骨あたりの部分が冷たくなってきました。ベストの上からジャケットを着てみても、意外と馴染みますね。

━━涼しいです。背中ってよく暑くなりますよね。

そうですね。背中の両脇に自律神経があって、体温が上がると交感神経が優位に働きます。だから熱くなった背中をベストで冷やして自律神経が体温を下げるほうに働けば、リラックスできるんですよ。

最新研究を生かした技術と正しい知識で熱中症時代を乗り切ろう

━━最新のベストを教えていただいてありがとうございます。

いえいえ。熱中症時代ですから、このように最新の研究を活用した技術やグッズがこれからどんどん出てくると思います。

━━熱中症時代をテックで乗り切ろうということですね。

そうですね。

━━4回にわたって熱中症対策を教えていただき、ありがとうございました。そして先生が今回、いろいろな知識をまとめた本を出されたと聞いたのですが。

はい、ありがとうございます。トップアスリートのコンディショニングに関する知見を一般の方向けにわかりやすくまとめた本『トップアスリートが実践している世界最強の健康マネジメント』を、このたび出させていただくことになりました。

━━先生に今まで伺ったお話がまとまった形で読めるということですね。参考にさせていただきます。みなさんにもぜひ参考にしていただきたいと思います。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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