日本のスポーツ口腔医学の第一人者、安井利一先生に口のコンディショニングに関する新常識を教えてもらう本シリーズ。第3回のテーマは「唾液」。先生によると、唾液が不足するとコロナ・インフルエンザ・虫歯・誤嚥性(ごえんせい)肺炎などさまざまな病気になりやすくなってしまうという。唾液が持つ知られざるパワーについて、日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。
<安井利一さんプロフィール>
一般社団法人日本歯科医学会連合理事長。城西歯科大学(現・明海大学)歯学部卒業後、同大学大学院博士課程修了。1997年に明海大学歯学部教授に就任し、病院長、歯学部長を経て、2008年から2023年まで学長を務める。現在は明海大学名誉教授、日本歯科大学客員教授。日本スポーツ歯科医学会理事長も務める。
感染症予防の役割も!実はすごい「唾液」の3つの働き

━━「唾液は天然のサプリメント」とはどういうことなんでしょうか。
唾液にはいろいろな機能があります。たとえば粉を食べても飲み込めるのは、唾液の力で固めているからです。唾液がなかったら食べられない。
口の中を清潔に保つ物理的な力を持っていますし、酸性のものやアルカリ性のものを中性にする中和の能力もあります。

また、唾液の中には免疫機能を持っている抗体「免疫グロブリンA(IgA)」もあります。特に感染症を防ぐ機能があって、コロナが流行したときも感染性のウイルスやバイ菌に対して抑制性があるということで重要性が見直されました。

━━感染症を防ぐということは、コロナだけでなくインフルエンザなどに対しても、唾液が守ってくれているんですか。
そうですね。「昼の歯磨きをちゃんとやっている小学校では、インフルエンザによる学級閉鎖がない」と言われているぐらいです。口の中を綺麗にするとバイ菌の量が減りますし、歯磨きによっても唾液が出るので、これらの相乗的な効果だと思いますが。

━━「病気や感染症の予防は手洗いうがい」と聞いていましたが、これに歯磨きが加わるとますます良いということですね。
そうですね。唾液の働きは物理的なもの、化学的なもの、免疫学的なものなど多様ですから。
食べ物をお茶で流し込むのはNG!噛んで唾液を出す重要性

━━唾液は、食べ物を消化してくれるだけじゃないんですね。
そうですね。高齢になると唾液が出なくなってくるのでお茶を飲んでご飯を食べる人が多いですよね。でも、あれはやめた方がいいです。食べ物をよく噛んで唾液を出してみてください。
正月に餅が喉に引っかかるケースがありますが、唾液が餅をくるんでくれればそんなに引っかからないんですよ。

━━喉の力が弱くなったから餅が詰まっちゃうのかと思っていました。
それもありますが、たとえばお茶などで流し込もうとしても、唾液が流れ込んでいないと餅自体はくっつきやすい状態のままなんです。唾液に含まれる「ムチン」というタンパクが餅の周りを囲ってくれていると、引っかからないんですが。

━━口の中が乾いていなければ良いというわけではなくて、ちゃんと唾液を出してあげることが大事なんですね。
そうですね。「よく噛んで自分のツバで食べなさい」とよく言われるんですが、食べ物を食べて、おいしさ・味・食感によって唾液は出てくるんですよね。ですから、噛める状態を作っておくことが重要です。
唾液が多い人は虫歯が少ない!唾液量は年齢にかかわらず重要

━━噛めないと健全な唾液が出ないんですね。
そうです。「唾液力」を自分の力にしようと思ったら、やっぱり噛むことですね。自分で唾液を出そうとする意識を持つことがすごく大事。それによって唾液の物理的な力、化学的な力、免疫学的な力をゲットできます。

━━高齢の方は唾液が少なくなってくるということですが、それ以外の方については唾液の量を心配しなくていいんでしょうか。
唾液の量って、人によってすごく差があるんです。唾液の多い人は虫歯が少ないんですよね。なぜ少ないのかというと、洗浄力や中和力、免疫力といった唾液のパワーが働くからです。昔はよく「唾液力」と言われていました。
口の機能低下は全身の衰えの前兆…オーラルフレイルに要注意

━━食べる・話す・飲み込むなどの口腔機能は、いつから下がってしまうんでしょうか。
徐々に下がっていきます。喋りにくさや舌の動きにくさ、食べにくさなどが表れてくると、次は全身に現れます。その注意警報ということで「オーラルフレイル」が注目されています。

フレイルになると、筋肉がなくなってきて歩けなくなっていく、つまずくなどの症状が出てくるんですが、オーラルフレイルはそのフレイルの前段階と捉えられています。全身の筋肉が衰える前に口に症状が出てくるんですね。

だから、「筋力や運動機能の低下にならないように、食べ物もいろいろなものが食べられるように考えていきましょう」ということで、オーラルフレイルが大事だと言われているわけです。

━━オーラルフレイルを防ぐためには、話すことも大事ですか。
ものすごく大事です。話さなくなると認知機能が下がりますし、口を使わないと唾液が出ませんので。黙って暮らすのが一番ダメだと言われているくらいです。
━━噛むだけじゃなく、とにかく口を使うことで唾液がしっかり出るんですね。
唾液が不足すると「誤嚥性肺炎」のリスクも増加

━━唾液が少なくなったら口の中でどんなことが起こってしまうんでしょうか。
唾液が少なくなると病気になりやすいです。一番有名なのは「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」ですね。
口の中のバイ菌は種類がたくさんあって、誤嚥によってそれらが喉を通過して肺炎になると、もうすごく治りにくいです。最近は死亡原因の中で肺炎が増えています。

━━誤嚥性肺炎と飲み込む力には関係があるんですか。
そうですね。食べるときは気道を塞ぎ、空気を通すときは食道を塞ぐ蓋があるんですが、その蓋の機能がうまく働かなくなると、肺の方に入ってしまう。物を飲み込む機能が衰えていなければ、肺炎になるリスクは下がります。
「反復唾液嚥下テスト」で自分の飲み込む力をチェックしよう

━━自分にどれぐらい飲み込む力があるのか、チェックできますか。
反復唾液嚥下(えんげ)テスト(RSST)というものがあります。人差し指を顎の下に置いて、中指を喉仏に置いて、ツバを飲みます。そうすると喉仏が上がって、また下がりますよね。

これを高齢者は30秒間で平均6回、若い人は30秒間で平均7回できます。30秒で3回未満になると嚥下能力が落ちていることになりますね。
━━自分で簡単にチェックできるので、気になる方はこのテストをやってみたらいいですね。次回は、先生に口に関する素朴な疑問に答えていただきたいと思っております。
(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)
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