日本のスポーツ口腔医学の第一人者、安井利一先生に口のコンディショニングに関する新常識を教えてもらう本シリーズ。第2回のメインテーマは、日本人の半数以上がかかっている「歯周病」。放置すると歯を支える骨が溶け、舌で動かせるほど歯がグラグラになってしまう。日本テレビホールディングス・古市幸子が、歯周病の予防につながる歯磨きのコツや歯ブラシの選び方についてインタビューをおこなった。
<安井利一さんプロフィール>
一般社団法人日本歯科医学会連合理事長。城西歯科大学(現・明海大学)歯学部卒業後、同大学大学院博士課程修了。1997年に明海大学歯学部教授に就任し、病院長、歯学部長を経て、2008年から2023年まで学長を務める。現在は明海大学名誉教授、日本歯科大学客員教授。日本スポーツ歯科医学会理事長も務める。
子どもも高齢者も「口ぽかん」が急増中!原因は口輪筋の弱さ

━━最近、口をポカンと開けている子どもが増えているということなんですが。
最近は3割ぐらいの子どもが「口ぽかん」になっています。コロナのときに、マスクをして口で呼吸をしていた影響もあるんではないかなと思います。

口が開いていると、どうしても口呼吸になって口が乾燥しますし、虫歯や歯肉炎などの歯茎の病気も多くなります。大人でも、「口ぽかん」になっていると口の筋肉を使わないので食べ物を噛まなくなっちゃうんですよね。

━━口をポカンと開けている状態は、筋肉を使っていないことになるんですね。これは病院で治療すべきなんでしょうか。
まずは保護者が、生活のなかで「口が開いたままでいるのは良いことじゃないんだよ」と教えてあげることですね。

医療としてやるのは、どちらかというと噛む力の治療です。たとえば唇の強さのトレーニングなら、ボタンに糸をつけて口を閉じて引っ張ったりします。唇に力がないとスポッと抜けてしまうわけです。
━━噛むだけじゃなくて、唇の力っていうのもあるんですね。
そうですね。高齢者にも「口ぽかん」に近い人たちがいます。唇の筋肉も舌の筋肉も、使わなければ衰えていきますから。そして、自分の話し方が相手にとって聞き取りにくいとだんだん喋らなくなってくるので、社会性も衰えてくるわけです。

━━「口ぽかん」の子が増えているということですが、その原因は何でしょうか。
噛むことや食べることが、あまり必要なくなってきているんだと思います。「口輪筋」という口の周りの筋肉があるんですが、これがすごく大事なんですね。

口輪筋が弱ってしまうと、食べ物がこぼれないように保つことができないんです。
歯磨きで血が出たら病気のサイン!骨が溶ける怖い「歯周病」

━━大人の口のコンディションですと、歯周病などが気になってくると思うのですが。
歯周病というのは、歯を支えている骨がバイ菌の出す毒素で溶けていって、歯がグラグラになってくる病気です。

━━そうなんですね。歯茎が弱っていることだと思っていました。
歯周病は「骨」の病気です。一方で歯肉炎は表面の歯茎の病気です。虫歯を作るバイ菌、歯肉炎のバイ菌、歯周病のバイ菌などがいて、歯周病と歯肉炎はバイ菌の種類が違うんですよ。
ゴマ1粒ぐらいに数億の菌がいるんですが、歯周病になると「動く菌」が多くなります。動く菌は歯と歯茎の境目に入っていけますし、酸素が嫌いなので酸素がいない歯茎の中の方へ進んでいきます。

その結果、歯垢(しこう)が溜まって石灰化して歯石になります。歯石はバイ菌からすると超高級マンションですから、住み着いていくわけですね。
そしてバイ菌が出す毒素によって骨がだんだん痩せてくる。そのうち歯がグラグラしてきて、舌で押すだけでも動くようになってしまいます。

━━歯周病がひどくなるとそうなっちゃうんですか。怖い。
一般の人からすると、歯周病の重症度がわからないわけですよね。でも、ひどい状態になる前には膿が出てくるし、膿が出てくれば口臭もついてきます。
歯磨きをしたときに血が出るのが最初の気づきになるはずなんですが、「ちょっと磨きすぎかも」と柔らかい歯ブラシに変えたりすると、余計ダメになっちゃうんですね。
加齢とともに歯がなくなっていく恐怖…日本人の歯周病の実態

━━歯周病って、日本人でどれぐらいいるんですか。
50歳代ぐらいがピークだと思いますが、8割ぐらいいるんじゃないですかね。多分症状が出ていない方もいらっしゃっると思います。
実態調査を6年に1度やっているんですが、そのデータだと50〜60歳ぐらいがピークに来ています。

━━50〜60歳のあとに減っていくのはどうしてですか。
歯がなくなるからですね。
━━悲しい。歯がなくなる前にちゃんと手を打ちたいですね。
歯ブラシ選びも重要!歯周病を予防する歯磨きの8つのコツ

━━歯周病を予防する方法は、基本の歯磨きになりますか。
はい。バイ菌は歯と歯の境目に住んでいて中に入っていこうとするので、「歯周ポケット」をキレイにすることが大事です。歯ブラシを45度ぐらいに当てて細かく動かすのがベストです。

しかし、なかなか難しいですよ。力が入ると歯茎のほうが負けて、下がってしみるようになっちゃったりしますから。
━━その力加減って、「ゴシゴシやっちゃいけない」「鉛筆を持つように」などいろいろな言い方がされますよね。
鉛筆持ちだと過度な力が入らないので、良いと思います。「歯と歯の間がきれいになるように」という意識でこすると、歯ブラシが歯と歯の間に入りますよ。ゴシゴシ磨いちゃうと全然入らないです。だから時間がかかるんです。

━━噛むのも歯磨きもちゃんと時間をかけて丁寧にということですね。先生がいろいろな方の歯を見ていて、歯磨きの注意点はありますか。
「歯磨き剤をいっぱいつけてすっきりした」みたいな人は、全然歯垢がとれていないですね。
━━最初はペーストをつけないで磨いて、途中からペーストを使った方が良い場合もあるんでしょうか。
そうですね。ペーストをつけるとどうしてもゆすがなくてはいけないですよね。そうすると、もう歯磨きが終わった感じになっちゃいますから。

━━歯ブラシの選び方については、何かありますか。
普通のナイロン毛で、硬さも普通の硬さで、細いものが良いと思います。上の奥歯の部分にほっぺたがあるので、大きな歯ブラシは入りにくいんですよね。

大きな歯ブラシはできるだけ使わないようにして、小さく前へ引っ張り出していく磨き方が良いと思います。

虫歯予防の場合は奥歯を全部一緒に磨きますが、歯周病の場合は一本一本を磨く意識で、小さく動かすのが良いです。大人の場合は虫歯にはなりにくいのでね。歯ブラシの大きさは、自分で決めたほうが良いです。

━━「小さいものが良い」ではなくて、ちゃんと奥に入るかや、自分の口の大きさや形によって決めた方が良いということですね。
そうですね。2〜3種類の歯ブラシを使い分けている人もいます。また、補助的に歯間ブラシやフロスをうまく利用されると良いと思いますね。

私は小学校で歯磨きを教えているんですが、子どもたちに鏡で自分の歯並びを見てもらい、自分の指を歯に見立てて、歯磨きを再現させてるんですね。そして「どうやったら歯と歯の間がきれいになると思いますか」と聞くと、子どもは「横じゃなくて縦だったら歯ブラシが入る」って言うんですよ。なので1本1本丁寧に磨くためには、歯ブラシを横だけでなく縦で使うことも必要になってきます。
このように、健康を維持するために自分がどう工夫するか、そこを学びとってもらうことが大事なんですよね。みんな一緒ではないので、自分の健康は自分で作って守る。

━━そうすれば、歯の形が変わったり生え変わったりしても、その都度オリジナルの磨き方をできるようになるということなんですね。
歯石は歯磨きで除去できない!定期的に歯科医院でチェック

━━歯石って歯磨きで取れるんですか。
歯石は歯垢にカルシウムやリンが沈着してできるので、歯磨きでは取れないです。歯垢から歯石になるまでの約2週間は柔らかいので、その間は歯ブラシで除去できます。

歯垢がだんだん硬くなってくると歯ブラシで取れないので、歯科医院に行って機械で取ってもらう必要があります。

━━かなり気を付けて歯磨きをしている人でも、歯石が付かないようにするのは難しいですか。
難しいです。だから、「定期的に専門家の治療を受けなさい」というふうになっています。歯科医院では、患者さんがどのぐらいで歯石がつくかチェックしています。

━━人によって歯石が溜まってくるサイクルも違うんですね。
そうですね。唾液に含まれるカルシウムやリンの量も人によって違いますから。だからどうしようもないんですよ。

━━歯周病を予防するには、自分だけだったらダメっていうことですよね。
自分でやる「セルフケア」だけではなく専門家の力を借りる「プロフェッショナルケア」もないと、健康って保てないですよね。
━━そのような場合、保険は適用されますか。
はい、保険が適用されます。歯周病に関していうと、定期的に全体をチェックするのは、全部保険でカバーされます。
━━さて、次回は天然のサプリメント「唾液」についてお伺いします。
(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)
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