スポーツ選手の競技パフォーマンス研究の第一人者としてトップアスリートへの科学的支援をおこなう日本体育大学教授・杉田正明さん。前回に続き休養について学ぶ第3回のテーマは最新研究でわかった「睡眠の4つの新常識」。最先端の知識や技術をどう日常生活に取り入れてうまく活用できるのか……。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。
<杉田正明さんプロフィール>
日本体育大学教授ハイパフォーマンスセンター長。日本のスポーツ界におけるコンディショニング研究の第一人者であり、東京・パリのオリンピックでは日本選手団の本部役員として科学的支援を行う。
ライフパフォーマンスが上がる! 睡眠の4つの新常識

━━「4つの新常識」ということで興味深い内容のカンペがすでに私の目の前に出てるので、読み上げさせていただきますね。
- 休養の新常識①:昼食後30分の昼寝で疲労回復
- 休養の新常識②:アイマスクで寝て学習能力アップ
- 休養の新常識③:「睡眠延長」で運動能力アップ
- 休養の新常識④:指輪で睡眠の質を測る
━━先生、全部「?」がついてしまったんですが。
睡眠については、ご専門にされてる著名な先生方がいらっしゃいます。私はあくまでもトップアスリートが実践していたり、彼らを対象とした研究成果を元にしたりして「ライフパフォーマンス」を上げるための休養につながるお話をさせていただければと思います。

━━アスリートがやっている睡眠休養術って、最強じゃないですか。
最先端の研究成果から導き出されたものですので、興味深く聞いていただければと思います。
効果抜群!休養の新常識①昼食後30分の昼寝で疲労回復

━━まず1つ目は「昼食後30分の昼寝で疲労回復」ですね。
はい。これは2年前に報告されている研究なんですが、アクティブな人や運動選手が、昼食を食べた後、だいたい14時ぐらいから30〜60分のお昼寝を取ると、夜ちゃんと睡眠をとっていたとしても「疲労感軽減」「認知機能アップ」「運動能力アップ」が認められました。
━━アスリートとは運動力が違う我々のような、普通の生活をしてる人でも当てはまるんですかね?
正確には、しっかりとエビデンスを紐解かないと断言はできません。しかし、食後にある程度にまとまった時間の昼寝をとることについては効果があると言われてますので、15分でも20分でもお昼寝をするのはかなり休養の効果があると考えていいと思います。

━━「パワーナップ」という言葉も聞いたことがあります。
そうですね。活力をもたらすお昼寝ということで「パワーナップ」という名前なのですが、今世界中に広がっています
寝過ぎ注意! 前日の睡眠時間を考慮して昼寝を調整しよう

━━では、我々がこれからどう昼寝を取ったらいいのかについて、もう少し詳しく聞かせていただけますか。
職場とか学校であれば机に伏して寝るとか、椅子に座って寝る。昼寝の長さは基本的には10分から、前日寝不足の場合は90分までオッケーです。
━━90分もお昼寝しちゃうと、夜眠れなくなったり睡眠の質を落としちゃったりしないかなと心配になのですが。
おっしゃる通りです。そこは前日の睡眠時間と当日のお昼寝の時間帯をうまく考えて、自分で制御するのが大事だと思います。

━━逆に昼寝でやっちゃいけないことっていうのはありますか?
長く寝すぎることですね。たとえばお昼寝を60分取った場合、その後の1時間はやっぱりぼーっとするんですよね。だから昼寝から起きてすぐに高度なお仕事をしなきゃいけない場合には、寝過ぎに注意する必要があります。
━━そのときの仕事の具合によってタイミングを考えてお昼寝をしたら、私たちのような一般の人でも効果的ということですね。
そうですね。あとは、カフェインをうまく使うのが良いとも言われています。寝る前にコーヒーや緑茶を飲むと、長くお昼寝できなくなるので。
五感が休まる!休養の新常識②アイマスクで学習能力アップ

━━2つ目の「アイマスクで学習能力アップ」ですが、アイマスクをして寝ると睡眠の効果のアップにつながるということですか。
形として睡眠を取っていたとしても、目とか耳はある程度アイドリングがかかった状態で、五感は働いているんですよね。ちょっと物音がしただけでも起きたりするじゃないですか。
なので、五感を抑えるためにアイマスクや耳栓をするのは効果があるんですよね。

━━アスリートたちって集団生活だったりするので、完全に眠る体勢を整えようと思うとアイマスクや耳栓は大事なんでしょうね。
オリンピックの後半になると、もう競技が終わった選手たちもいて、選手村が騒がしくなったりするんですよね。
━━そんな中でもコンディションを整えないといけないわけですね。
そうですね。だから睡眠対策が必要になります。
1週間、アイマスクをした場合としなかった場合を比較した実験では、アイマスクありのほうが、アイマスクなしよりも前日記憶した量が多かったり、コンピューター上で認知機能を調べるテストの反応時間が短かったり。
また、深い睡眠時間が長ければ長いほど記憶力が良かったというデータも示されていて。

━━そんなにいろいろな形で実証されているんですか。
アイマスクをすれば、深い睡眠が取れて学習の脳への定着がより進むというエビデンスですね。
━━ドラッグストアに目が温まるアイマスクがあったりしますよね。試したことがあるんですけど、あれを付けるだけでも気持ちが良いですもんね。
そうですよね。
睡眠負債を解消!休養の新常識③睡眠延長で運動能力アップ

━━では、続いて3つ目の「睡眠延長で運動能力アップ」なんですが。睡眠延長って、私は初めて聞きました。
そうですね。アスリートを対象とした研究論文でこの数年出てきている、新しい考え方ですね。
たとえば毎日8時間寝てる人が5時間しか寝なかったら、3時間の睡眠不足ですよね。その睡眠不足の状態が何日間も継続すると、それが負債となって溜まっていって、自分でも気づかないうちに体調を崩す。これが睡眠負債ですね。
━━睡眠負債は聞いたことがあります。
はい。「睡眠延長」は睡眠負債とは逆です。これはバスケットボールを対象とした研究なんですけど、普段8時間寝てる人たちに2時間余分に寝てもらう実験を5週間続けたところ、シュートの成功率も走る速さも気分の状態も圧倒的に良くなって、最高の状態になったんです。

睡眠負債を抱えている人は、たくさん寝て、睡眠不足で抱えた負債を返却しなきゃいけないんですよね。毎日寝られるだけ寝てある程度落ち着いたところが、生理的に自分が必要とする睡眠時間になります。
生活リズムを変えず土日のパワーナップで睡眠延長しよう

──睡眠延長をするとして、寝すぎてかえって逆効果になることってないですか?
いや、逆効果になることはあるんですよ。平日にいつも朝7時ぐらいに起きてる人が、土日に12時とかいつもととか違う生活パターンをしてしまうと、水曜日ぐらいまで午前中だるくなるんです。
──そんなに引きずります?
そうなんです。クタクタで1週間が終わって土日に何にもないってなったとしても、毎日決まった時間に起きているならその時間にちゃんと起きる。
そして光を浴びて、ご飯食べたりテレビ見たりしてもいいので、自然に眠くなってきたタイミングでお昼寝、いわゆるパワーナップを取って睡眠時間を稼ぐ。
こういうやり方が、1番週明けの体調に影響を及ぼさない形の、良い睡眠の取り方かなと思います。

──なんとなく眠気が取れない、だけど眠れないっていうときはどうしたらいいんですかね。
お風呂をうまく活用するっていうやり方があります。お風呂に入ると一時的に体温が上がります。そしてお風呂から出て90分後ぐらいに体温がかなり下がって、眠りやすくなるんです。
睡眠の点数が出る!? 休養の新常識④指輪で睡眠の質を測る

──続いて、本当に謎なんですけれども、「指輪で睡眠の質を測る」。
はい。実は僕、今はめてる指輪があるんです。この指輪の内側にはセンサーが3つ付いています。1つは赤外線で脈の拍動状態を把握できるもの、2つ目は体温を測るもの、3つ目は活動量を測るもので。
──なんか最近「ウェアラブルデバイス」って言いますよね。
そうそう、それです。いろいろなデバイスが国内外から出てるんですけども、僕が付けているのは世界で最初に指輪型のセンサーを搭載したリングなんですね。
これは酸素飽和度から心拍数、睡眠の深さ、睡眠時間までわかります。そして朝起きたときにコンディション点数と睡眠点数が出てくるんですよね。

──先生はその結果を見て、どんなふうに活用されているんですか。
たとえば点数が低くて「たしかに体調が悪いな」と思ったら、夜はもう早く眠るとかお酒飲まないとか、できる範囲でしてます。
でもこの数字を鵜呑みにするわけではなくて。やはり自分の主観も大事だと思うんですよ。だから客観的なデータも大事ですけど、自分の主観とうまく突き合わせをしながら自分なりの休養術を開発していくのが大事かなと思います。
──そこまで考えるとほんとに人生が変わりそうな気がしますね。
はい、確実に変わります。
(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)
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