スポーツ選手の競技パフォーマンス研究の第一人者としてトップアスリートへの科学的支援をおこなう日本体育大学教授・杉田正明さん。「人生が変わる!コンディショニング術」シリーズの最後・第4回のテーマは歩行。歩く速度が早い人は長生きするそうだが、いったいどういうことなのか……。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<杉田正明さんプロフィール>
日本体育大学教授ハイパフォーマンスセンター長。日本のスポーツ界におけるコンディショニング研究の第一人者であり、東京・パリのオリンピックでは日本選手団の本部役員として科学的支援を行う。

歩くだけで寿命が変わる!早歩きな人は長生きする

━━運動編ということですが、歩くだけで人生が変わるって言い切って大丈夫ですか? 

はい、大丈夫です。歩くだけで寿命が変わります。今日は「歩く速度が速い人は長生きだ」ということを新常識としてお話ししたいと思います。

━━それは何か実証されているデータや研究があるんでしょうか?

はい。ピッツバーグ大学のすごい研究があります。約3万4000人の65歳以上の人を対象に5〜21年間追跡調査をして、歩く速度と平均余命を調べた研究です。

この研究を実施したピッツバーグ大学のストデンスキー教授は「人間の動く速度はその人の活力と健康を如実に表す」というふうに言ってるんですよね。

━━歩く速度に注目している研究って、新鮮な感じがします。

そうですね。たとえば8000歩や1万歩など、1日の歩数が健康状態に関係するっていう論文は数多くあるんです。

しかし最近では「歩く速度も健康状態と関係がある」と結論付ける論文もたくさん出てるんですよ。

歩く速度が毎秒0.3m違うだけで平均余命が8年も変わる

━━とにかく前より早く歩くようにすると、寿命が伸びていくことには間違いないですか。

はい、単純に言うとそうですね。死亡リスクが下がります。このグラフを見てください。横軸が年齢、縦軸が余命年数を表しています。

たとえば毎秒1.3メートルで歩いている65歳の男性は、グラフを見ると余命年数が24年ぐらいです。一方で、1番速い毎秒1.6メートルで歩いている65歳の男性は、なんと余命年数が32年。

歩く速度がたった毎秒0.3メートル違うだけで余命年数が8年も違うということが、このグラフから読み取れるんですよね。

━━先生、私もうちょっと早くこの話を聞きたかったです!でも早足で歩くって結構大変ですよね。急いでると走っちゃうんですけど、早足が大切なんですよね? 

そうです。走ると身体が浮くので、実は早く歩くより軽く走ったほうがエネルギー消費が少なくて楽なんですよ。

100メートル1分を目安に「大きく速く」歩こう!

━━具体的にはどれくらいの速度で歩くと「早足」と言えるんでしょうか。

100メートルを1分で歩くことができると理想的です。たとえば東京の都心だと電柱が大体30メートル間隔にあります。3本で90メートルなので、電柱3本の距離を1分をちょっと切るぐらいで歩くことができれば良いですね。

━━電柱があったら試してみたいと思います。ただ、ちょっと気を付けることもあるかと思いますが。

はい。まず足首ですね。速さだけを意識してつま先が下がってしまうと転びやすくなります。なので「大きく速く歩く」を心掛けていただくことが大事だと思います。歩幅をできる限り広く取って、腕も大きく振るイメージですね。

早歩きは長寿につながる重要な筋肉「大腰筋」を鍛えられる

━━でも、なぜ早足で歩くことが長寿につながるんですか?

いい質問ですね。速く歩くことと、ある筋肉との関係性が深いということがわかってきたんです。どこの筋肉だと思いますか。

━━それはもう「ふくらはぎ」じゃないかと。

うーん、違うんですね。大きい腰の筋肉と書いて「大腰筋(だいようきん)」といいます。腰から太ももにかけて繋がってる筋肉です。

━━大腰筋って歩くうえでそんなに大事なんですか。

はい、関係性が深いです。加齢に伴う「太ももの表」「太ももの裏」「大腰筋」の筋肉の低下の様子を見てみると、太ももの表や裏よりも大腰筋の低下の割合が大きいんです。

大腰筋は二足歩行を可能にしている重要な筋肉で、この筋肉が衰えていくと歩行能力も低下しますし、姿勢も悪くなってきます。

━━でも大腰筋なんてスポーツをやっていないと鍛えられないですよね。

おっしゃる通りだと思います。例えば坂道を上がるときとか山登りをするときなどにしっかり働きますから。普段かなり意識してトレーニングをしない限り、大腰筋を鍛えるのはなかなか難しいかもしれません。

━━それなのに早足で歩くだけで大丈夫なんですか?

はい。早足で歩くことと、坂道を使って歩くこと。これが大事です。

高齢でもトレーニング次第で大腰筋を鍛えられる!

━━見た目で大腰筋を使っているのかどうかわかる方法ってあるんですか。

大腰筋はお腹の奥にある筋肉で、筋力自体を測定することはできないんですよ。だからMRIで撮ったお腹の輪切りの写真を使って大腰筋に相当する部分の面積を測って、画像で大きさを比較するんですよね。

━━そうすると一目瞭然なんですね。

そうです、わかりやすい画像があるんですよ。以下の写真の左は運動習慣のない70歳の女性の大腰筋の断面図になります。右は運動教室に参加している70歳の女性のものです。運動教室に参加している人のほうが格段に大腰筋が大きいことが分かりますよね。

━━いや、ほんとに(大腰筋の筋肉量が)違うんですね。

これは3年間教室に参加した人のデータなんですね。ですから高齢者であったとしても、トレーニング次第で大腰筋を発達させることが可能なんじゃないかと。

スポーツ界では2008年から大腰筋のトレーニングが定着化

━━じゃあ今まで運動してなくても、お年を重ねても、運動習慣を続けるとちゃんと筋肉は育つんですね。

おっしゃるとおりです。世界的にエビデンスがありますから。大腰筋は、そういう意味で「長寿筋」と言ってもいいかもしれません。

2008年当時、100メートルの世界記録を持っていたジャマイカのアサファパウエルという選手が日本に来て、国立スポーツ科学センターでMRIを撮ったんです。

そして当時の日本のスプリンターのエースの朝原さんとの比較が報告されているんですが、なんと2倍以上ジャマイカの選手の大腰筋が大きかったんです。

━━うわあ、ほんとに大腰筋で勝ち負けが決まっちゃうようなところもあるんですね。

そうですね。そして2008年以降、スポーツ界では大腰筋がかなり重要になって、大腰筋を鍛えるトレーニングが定着化したという事実があります。

━━単純に考えると、大腰筋によって速さの差が出るぐらいと言い切ってもいいぐらいなんですか?

おっしゃる通りです。

━━早く走ったり速く歩いたりなど、少なくとも運動することが大腰筋を発達させて、それが長寿につながると理解すればいいんでしょうか。

そうですね。

「大腰筋衰え度チェック」で自分の大腰筋の状態を知ろう

━━自分の大腰筋がどうなってるか気になるのですが、MRI以外でチェックする方法って何かありますか。

「大腰筋衰え度チェック」というテストがあります。ぜひやってみましょう。まず最初に、壁に背中やお尻や頭をつけていただきたいです。

その状態で、右利きの人は左足をできるだけ高く上げて、左足の下で5回手を叩けるかどうかっていうテストです。

━━うん、1回が限界です。先生、私の今の状況はどれくらいのレベルでしょうか。

5回手が叩けないとバツなので、基本的には「衰えています」という判定にならざるを得ないです。

━━自分の大腰筋が衰えてるとわかったら、まず何から始めたらいいでしょうか。

最初の姿勢の状態で右、左と、できるだけ足を高く上げるのを10回しましょう。

ポイントは、まず膝を高く上げて、つま先もしっかり上に向けること。それができるようになったら、左を上げて手を叩いてください。下ろして今度は右です。

これを20回、30回やれるようになったら、テストで5回できるようになると思います。

━━そこそこの運動強度がありますね。ちょっと汗かいてきました。

あります。エネルギーを使いますんで。

新常識ばかりの全4回! できそうなものから生活に取り入れよう

━━4回にわたってお送りした「人生が変わるコンディショニング術」。目から鱗の新常識ばかりでしたが、最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。

4回にわたってご視聴いただきまして、ありがとうございました。4回のなかでお話させていただいたことは、日常生活で誰もが簡単にいつでもできる取り組みです。

人生がより良いものになっていくと思いますので、ぜひ1つでも2つでもできそうだなと思うものを積極的に取り入れていただければと思います。ありがとうございました。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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