日本のアンチエイジング医学の第一人者・満尾正さん。「現在の日本人は食事やライフスタイルの変化によって体内の栄養バランスが崩れてしまっている」と栄養の危ない現状について警鐘を鳴らしている。具体的にどのような栄養素が不足しているのか、栄養バランスが崩れるとどんなリスクがあるのか……。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<満尾正さんプロフィール>
満尾クリニック院長。ハーバード大学で栄養学を習得した日本のアンチエイジング医学の第一人者。1982年、北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、キレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを2002年赤坂に開設、2005年広尾に移転、現在に至る。著書に「食べる投資」アチーブメント社など多数。

身体の内側から老化をコントロールする新しい医学「アンチエイジング医学」

━━先生のご専門「アンチエイジング医学」はどのような学問なのでしょうか。

老化スピードをコントロールしようという目的で新しく始まった医学です。新しいといっても日本でもう25年ぐらいの歴史があり、広く浸透しつつある領域だと思います。

━━身体の調子を整える知識を学ぶなど、病気になる前の予防に重きを置いた医学になるんですか。

そうですね。アンチエイジング医学の世界では「心 食 動」の3本柱と言われるんですが、今日はそのうちの「食」、すなわち栄養の取り方についてお話しできればと思います。

━━アンチエイジングというと、つい「美容」を考えてしまいます。

そうですよね。日本では美容系の先生方を中心に「アンチエイジング=美容」というイメージになっていると思います。

一方でアンチエイジング医学の世界は「体の内面から老化するスピードを遅くしよう、老化をコントロールしよう」という領域になります。

メタボは時限爆弾!? 食べ過ぎ・飲み過ぎは老化の原因になる

━━アンチエイジングや長生きすることって、絶対に皆さんがこれから考えたいことの1つですよね。

おっしゃるとおりです。たとえば普段から食べ過ぎ、飲み過ぎの方は年齢以上に早く老けてしまいます。そういうケースは、皆さんの周りでも多々見られると思います。

━━食べ過ぎ・飲み過ぎって、それだけで老けちゃうぐらい影響があるんですか。

はい、食べ過ぎるとそれだけで老化の1つの原因になります。特に今は、我々の仲間内で「時限爆弾」と呼んでいる「メタボリックシンドローム」が問題になっています。

だからこそ「どういうものをどのくらい食べたら良いのか」を理解することが大事になります。

簡単に食べ物が手に入る時代だからこそ栄養バランスが崩れている人が多い

━━今回の副題に「栄養の危ない現状」とありますが、危ない現状とはどういうことでしょうか。

たとえば、コンビニに行けばお菓子など、加工食品を中心にさまざまな食品を手軽に口にすることができますよね。

その結果、すべての人とは言いませんけれども、若い人を中心に非常に栄養のバランスが崩れてしまっています。

日に当たらない生活で日本人の80%が「ビタミンD不足」

━━我々が取れてない栄養素がいろいろあると思うんですが、特に何がありますか。

日本人の80%が「ビタミンD」という大事なビタミンが不足してしまっています。

これは世界的な現象でもあって、ビタミンD博士と呼ばれているボストン大学のHolick先生が2007年に「現代人にはビタミンDが不足している」と論文で指摘しました。

しかしまだ日本では「ビタミンDが不足している」ということが、全然浸透していません。

━━ビタミンCはよく聞きますが、Dはあまり聞かないですね。

ビタミンDは、紫外線に当たっていれば皮膚で自然に作られるものです。しかし現代は室内で仕事をする時間が増えてほとんど日の光に当たらないので、十分なビタミンDが作られなくなっています。

特に1980年以降、「日光に当たると皮膚がんになる」と言われるなどして、太陽光線を避けるような生活習慣が広く浸透しました。

それに日本人は「色が白いほうが美人に見える」という考え方もあって日光を避ける傾向が強く、ビタミンDのレベルが非常に下がっている方が多いとわかっています。

日焼け止めを使うとビタミンDが作れない! 食事からの補充がカギ

━━日に当たってないことがビタミンD不足につながるんですね。

はい。ビタミンDを補充する方法としては、まず1番は日の光に当たることです。2番目は青魚など食品から取ること。特に鮭が良いですね。3番目は、足りない分をサプリメントで補う。

━━日焼け止めを塗っていても、ちゃんと日に当たっていることになるんでしょうか。

残念ながら、日焼け止めは紫外線のUVBという成分をブロックするので、皮膚でビタミンDを作ることができなくなってしまいます。

しかし「日焼けをしたくない」「シミを増やしたくない」と考える人は、日焼け止めを使わざるを得ない。なので、ほかの食品かサプリメントで補うことをおすすめします。

ビタミンD欠乏は骨粗鬆症などさまざまな病気の原因に!

━━実際に先生のクリニックにいらっしゃる患者さんをみて、ビタミンD不足を実感されることはありますか。

はい。うちのデータでも80%が「ビタミンD欠乏」または「ビタミンD不足」です。欠乏と不足がどう違うかですが、20ng/mlに達しない場合を「欠乏」、30ng/mlに達しない場合を「不足」といいます。

特に欠乏状態にあるとさまざまな病気にかかりやすいということが指摘されています。

━━どういう人に急いでビタミンDをとってほしいですか。

まずは、高齢者で骨粗鬆症でお困りの方ですね。一生懸命カルシウムをとっている方がいらっしゃるんですが、どんなに頑張ってカルシウムをとっても、ビタミンDが低ければ腸の中をカルシウムが素通りして体内に吸収されません。

母親のビタミンD欠乏によって赤ちゃんの骨の病気が増えている

━━骨を強くしようと思ったらビタミンDも必ずセットでとらないといけないわけですね。

はい。私が最も心配してるのは、若年女性、これからお子さんを出産しようという世代の女性のビタミンDが極めて低いことです。

母乳中のビタミンDが低くなってしまうと、母乳で育てられた赤ちゃんのビタミンDも当然下がってしまうんですね。

その結果、赤ちゃんの骨が曲がってしまう「ビタミンD欠乏性くる病」のリスクが出てきます。この病になるお子さんは、約10年間でなんと2.5倍に増えてるんです。

また、赤ちゃんの頭蓋骨は最初柔らかくて成長とともに少しずつ硬くなっていくのですが、ビタミンD欠乏によって骨が硬くならない赤ちゃんが増えてるというレポートも、日本で20年近く前から出てるんです。

ビタミンDは身体の機能をコントロールするホルモンの一種

━━ビタミンDが身体を作ってるわけですね。

おっしゃるとおりです。体の潤滑油といいますか、あらゆる身体の機能をコントロールしているので、なくてはならない成分です。

「ビタミン」という名前がついているとどうしても軽く見られてしまうんですが、ビタミンDは正確にはコレステロールから作られるホルモンの一種なんですね。

コレステロールからできるホルモンを「ステロイドホルモン」といいますけれども、ビタミンDも広い意味ではその仲間で、非常に重要な働きをしているとわかっています。

特にお子さんを妊娠、出産しようと考えていらっしゃる方は、赤ちゃんの健康を守るためにもビタミンDを増やしていただきたいと考えています。

皮膚のかゆみや味覚の異変…現代人に足りていない栄養素「亜鉛」

━━ビタミンD以外にも、栄養面に関して危ない現状があるんですか。

はい。「現代人に足りない栄養素」としてよく挙げられるのが、ビタミンDと亜鉛、マグネシウムです。

亜鉛は牡蠣に多く含まれていることで有名なミネラルの一種です。当院の外来のデータをみると、残念ながら70歳以上の高齢者は、亜鉛が基準値を下回る人が多いですね。

亜鉛がないと身体の細胞は分裂できません。ということは、毎日細胞が分裂しているような皮膚や粘膜には亜鉛がなくてはならないんですね。

よく高齢者で皮膚がかゆい方が多いんですけども、こういう方は亜鉛不足です。また、舌が痛かったり味覚がおかしいと感じたりするのも亜鉛不足の症状になります。

また、目の網膜や男性の前立腺などにも亜鉛が多く含まれてるので、これらの機能と亜鉛にも切っても切れない関係があります。

若い世代も亜鉛不足のリスクがある! 年齢に関係なく注意が必要

━━亜鉛は絶対とらなきゃいけないものですね。

はい。一度は血液中の亜鉛のレベルを、健康診断などでかかりつけの先生に見てもらうことをお勧めいたします。

最近は、20歳未満などの若い世代で、亜鉛がびっくりするぐらい低いケースがあります。これはもう完全に偏食や食事の問題ですね。

━━ほんとに、亜鉛不足は老いも若きもいろいろな症状が出てきちゃうんですね。

はい、亜鉛はそれくらい大事なミネラルです。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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