ハーバード大学で栄養学を習得した、日本のアンチエイジング医学の第一人者・満尾正さんに新常識を解説してもらう「栄養編」。第3回のテーマは「亜鉛」。亜鉛が不足するとどんなリスクがあるのか、亜鉛をとるために何をどう食べれば良いのか……。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<満尾正さんプロフィール>
満尾クリニック院長。ハーバード大学で栄養学を習得した日本のアンチエイジング医学の第一人者。1982年、北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、キレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを2002年赤坂に開設、2005年広尾に移転、現在に至る。著書に「食べる投資」アチーブメント社など多数。

亜鉛は必須ミネラル! 不足するとさまざまな器官に影響が出る

━━前々回の「危ない現状編」で、高齢者も若い人も亜鉛不足になっているというお話でしたが、亜鉛が不足するとどんな影響があるでしょうか。

亜鉛は、細胞が分裂するときになくてはならないミネラルの一種なんですね。有害金属の「鉛」とはまったく無関係で、むしろ必須ミネラルの代表選手です。

たとえば、毎日細胞が分裂している皮膚や粘膜などの部分にとって、亜鉛は欠かすことのできない栄養素といえます。

━━亜鉛って、身体にとってどれくらい大事なものなのか今ひとつ腹落ちしてなかったんですが、必須ミネラルなんですね。

そうなんです。たとえば男性の場合、膀胱の出口についている「前立腺」という器官があるんですが、臓器の重さ別で最も多く亜鉛が含まれている部分になります。

次に多く含まれる器官としては「目の網膜」ですね。亜鉛が多く含まれているということは、その器官が亜鉛を必要としているということ。亜鉛不足が起きると、こういう臓器の機能がおかしくなってしまうわけです。

そのため男性の場合は前立腺の肥大やがんにつながったり、網膜の機能が障害されて視力の問題が起きたりする可能性があります。

━━亜鉛をとってないと、視力も悪くなるんですか。

はい、視力に影響が出る可能性があるといえます。また、高齢者の方で皮膚がかゆくなって、原因を調べてみると亜鉛不足だったというケースもよくありますね。

また、亜鉛欠乏で味覚障害になることも、外来でよくみるケースです。ひどくなると「舌痛症」といって、味噌汁などを飲むと舌にしみて、痛くて食べられなくなることもあります。食べ物を食べられないから、さらに亜鉛欠乏になって症状がどんどん悪くなってしまうという。

原因は胃酸の変化と薬?70歳以上は亜鉛不足になりやすい

━━診察などをとおして、亜鉛は本当に欠かせないものだと先生も実感されているんですね。

おっしゃるとおりです。ただし、日本ではまだ健康診断などで亜鉛不足が注目されていません。

当院の外来の患者さんのデータを見ても、年齢が70を超えると亜鉛の数値が最低基準の80を下回ってしまうんですね。そのため、70歳を超えた方は血液中の亜鉛の数値を、一度近所の先生に調べてもらうことをおすすめします。

━━なぜ70歳ぐらいになると亜鉛の数値が基準を下回ってしまうんでしょうか。

おそらく消化と吸収に原因があるのではと考えられていますが、結論ははっきり出ていません。

消化と吸収では「胃酸」が大事になります。胃酸には「外から入ってくる雑菌を殺す」「タンパクを分解・吸収する」「亜鉛のようなミネラルを吸収する」という重要な働きがあります。

しかし、加齢とともに胃から分泌される胃酸の量や濃度が減ります。そうすると、ミネラルの吸収ができなくなる。その代表的なケースが亜鉛なんですね。

また、加齢とともに胃酸の量や濃度が減るだけでなく、胃の噴門(胃の入り口)の筋肉の締まりも弱くなって逆流性食道炎になることがあります。そのときにお医者さんから胃酸の分泌を止める強い薬が処方されて、さらにミネラルの吸収が悪くなってしまう。

消化に関しては、この二重の原因が亜鉛不足に関係していると思います。

━━70歳ぐらいの方だけじゃなくて、全世代が亜鉛不足になっているのも気になります。

うちのクリニックにいらっしゃる患者さんのご子息やお嬢さんなど、10代、20代くらいの若い方から健康上の相談を受けて調べてみると、極めて亜鉛濃度が下がってるケースが多いんですね。

これはやはり偏食や食生活の乱れが大きな背景としてあると感じています。

赤身肉にレバー…亜鉛が多く含まれる食材を積極的にとろう

━━どのような食材に亜鉛が多く含まれているのでしょうか。

代表的なものは、牛肉の赤身、レバー類、胚芽、チーズ、高野豆腐、ナッツ、ゴマなどですね。

━━結構いろいろなものに含まれているんですね。牡蠣もそうでしょうか。

そうですね。しかし亜鉛の数値が下がってしまっている場合、大ぶりの牡蠣を毎日最低5個ぐらい食べないと、十分な量を補給できないんですね。

━━どういうふうに食べるのが良いでしょうか。

ミネラルは、煮ても焼いてもまったく変わりません。だから牡蠣鍋にしても、缶詰でも大丈夫です。

━━缶詰も良いとなると、だいぶ摂取しやすくなりますね。

ミネラルの摂取で困ったら「全体食」がおすすめです。小魚のように頭から尻尾まで全部丸ごと食べられる魚を食べれば、まず外れはありません。鉄分や亜鉛だけでなく、微量のミネラルも含めて、生き物がそれで完結してるわけですから。

和食中心でビタミンDも亜鉛も取れる「50年前の食事」が理想的

━━70歳を超えると、特に女性がビタミンDも亜鉛も不足しがちと聞いて、私もそうなっちゃうのかと心配になりました。

女性の方は男性と比べて食べる量がそもそもが少なめで、消化吸収の力も男性よりも少ない方が多いと思います。うちの患者さんでも、やっぱり細身の女性の方は数値が低い傾向にありますね。

━━ビタミンDも亜鉛もとれる理想的な食事ってどんなものでしょうか。

大学の先生が「今からちょうど50年前の、1975年ごろの食事が理想的だったんではないか」という研究をされてます。

核家族が少なく、味噌汁に小魚に野菜とさまざまな食品があって、いわゆる和食が中心でした。これを2025年の今、どれくらいの家庭で維持できているかなと思います。

━━今の時代に理想的な食事をとるのは、だいぶ難しくなってきていますか。

はい。コンビニに行けば何でも買える便利な時代ではあるんですけれども、小魚を丸ごと食べられるような、そういう食生活を維持するのは難しい時代かもしれません。

まずは自分の栄養状態を知ることが大切!血液検査を一度受けてみよう

━━食事や栄養に関して、一般の人に「これは頑張ってほしい」と思うことは何かありますか。

まず、今の自分の体がどういう状態にあるのか客観的に知ることが大事ですよね。「自分は大丈夫だ」と思ってる方がほとんどで、病気になって初めてどこかおかしいと気づくわけなんです。

だからこそ、病気で困る前に血液検査などで今の自分を知ることが重要です。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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