今回のテーマは「熱中症」…。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<杉田正明さんプロフィール>
日本体育大学教授。ハイパフォーマンスセンター長。日本のスポーツ界におけるコンディショニング研究の第一人者であり、東京・パリのオリンピックでは日本選手団の本部役員として科学的支援を行う。

<西沢邦浩さんプロフィール>
健康医療ジャーナリスト。早稲田大学卒。小学館を経て1991年日経BP社入社。『日経ヘルス』『日経ヘルス プルミエ』編集長、日経BP総研主席研究員を歴任。現在はサルタ・プレス代表取締役を務めるほか、講演・執筆活動も行う。

これまでの常識が通用しない! 日本は「熱中症時代」へ突入

━━熱中症対策の1回目のテーマは「日本は熱中症時代へ」ですが、西沢さん、これはどういうことでしょうか。

西沢さん)現状として気温が上がっていて、昨年は熱中症が原因で救急搬送された方が過去最高の9.7万人でした。10年前は約4.5万人だったので、2倍以上になっているわけです。

━━夏になると、熱中症のニュースをよく聞くようになりましたもんね。

西沢さん)この変化は日本だけでなくて、世界中で問題になっているんです。『Nature』(国際的な科学雑誌)も、「世界で生まれた子供たちの52%が前例のない熱波に晒されます」と言っているくらい、気を付けなければならない環境になっていると思います。

━━子供は特にアスファルトにも近いですし、体力が少ないので心配ですよね。高齢者の方の熱中症も心配です。

西沢さん)高齢になると感覚が鈍ってくるので、熱中症になりかけているのか気づきにくいんですよね。屋外だけでなく屋内で熱中症になるケースもよくあります。しっかりクーラーを使うことを習慣にしないといけない状態ですよね。

脳卒中にアルツハイマー…気候変動で上がる病気のリスク

━━まさに熱中症時代の日本ですが、気候変動でこれだけ暑いと、体にもいろいろな影響が出てきますよね。

西沢さん)そうなんです。たとえば、1968年から2023年の間に発表された気候変動に関して、体への影響を分析した研究があります。その結果、脳卒中やアルツハイマーなど、かなりの数の病気のリスクが上がることが明確にデータとして出ています。

━━気温が上がることで熱中症以外にもいろいろなリスクが増すんですね。

暑さが続くと老化が進む!? アリゾナの研究でわかった人体への影響 

西沢さん)そうなんですよ。水分が不足して脱水気味になることもリスクですけれども、高熱環境下にいること自体もリスクなんです。たとえば、アメリカのアリゾナには1年間の半分ぐらいが猛暑日という地域があります。

アメリカの研究で、その地域に住んでいる人と、年間に10日〜2週間ぐらいしか猛暑日がない地域の人たちを比べたところ、アリゾナの地域に住んでいる人のほうが14か月ぐらい体内年齢が老化しているというデータが出ているんですね。

西沢さん)つまり、暑さが続くこと自体が我々の老化を進行していることがわかってきたんです。たとえ1週間でも2カ月でも、猛暑日が続くと老化は進みます。

最新研究でも示唆されている「暑さで免疫が落ちる危険性」

━━体温よりも高い気温のなかにいるって、もう異常事態だと感じます。

杉田さん)そうですよね。人間の皮膚温は33度ぐらいなんですが、それより低い大気に熱が伝導して体の熱を放出するんですね。つまり34、5度になると、熱が伝導しないので体から熱を放出できないんです。そういう異常気象になっているということですよね。

西沢さん)この間、学会でも「高熱の状態だと、さまざまな免疫の指標の数値が落ちていく」という研究の発表がありました。

━━免疫って体温が低いほうが危ないと思っていましたが、これからは気温が高いことによる免疫のリスクが出てきているんですね。

西沢さん)そうなんですよ。もちろん、体温がある程度高い状態だと免疫が活性化します。

しかし、たとえば動物の冬眠ってありますよね。冬眠は非常に体温を下げた状態で「長生きモード」に入っているわけです。人でも、ご長寿の方のなかには体温が高くない方々もいらっしゃいます。

西沢さん)そういう意味で、常時高温の状態は人間にとってあまり良くないんじゃないかという気がしますね。

高齢になるほど暑さを感知する皮膚のセンサーが衰えてしまう

━━高齢者の熱中症っていつごろから出てきているんでしょうか。

杉田さん)熱中症にかかった人の年齢階級別に見た統計のグラフをみると、1990年頃から
75歳以上の方の割合が急増しているんですね。現在では、熱中症になる人の6割以上が高齢者だと思います。

杉田さん)我々の皮膚の奥には、暑さや熱を感知するセンサーがあるんですね。そのセンサーが脳に「体が熱い」と伝えて、自律神経を調整して汗をかいたり、血管を拡張させて熱を出したりといった働きをします。

そのセンサーの機能が、高齢になればなるほど衰えるんです。それで、暑さに対して感覚が鈍くなって、気づかないうちに熱中症になってしまう。

━━私の父にも「水をちゃんと取ってね」と話すんですが、「老人扱いをするな」という感じで飲みたがらないことがあって。うまく伝えるのって難しいなと思いますね。

西沢さん)水をとらないでいると体内の塩分濃度が上がるんですが、これも老化を進める因子であることがわかってきたんですね。それも、異常値ではなくて正常値の方でも、慢性疾患のリスクが高まったり老化が進んでいたりといった兆候が見られます。

西沢さん)そういう意味でも水はしっかり飲んで、安定した塩分濃度を保っておかないといけないんですね。

杉田さん)水分補給は、暑さに関係なく大事なことですよね。

熱中症の原因は暑さだけではない! リスクが高まる3要素に注意

━━今の季節からほかに気にしておくべきことってありますか。

西沢さん)そもそも熱中症は「環境要因」「体」「行動」の3つの要素が重なったときに起こるんですよね。

たとえば「持病があるのに無理をする(体の要素)」「睡眠不足が続いている(行動の要素)」など、体や行動に影響があることを続けていて熱い環境(環境要因の要素)が来るとダメージを受けるわけですね。

西沢さん)そういう意味で、暑くなる時期は「しっかり睡眠をとる」「生活リズムを維持する」といった、基本的な生活のチェックが大事になります。

杉田さん)睡眠不足だと深部体温が上がりやすいというエビデンスもあるんですよ。ですから、まさにその通りだと思います。

━━睡眠不足のときにはより気をつけないといけないんですね。

西沢さん)本当にそうです。ちなみに睡眠不足で海に行くと、睡眠不足じゃないときに比べてシミも増えるし、肌の老化も進むんですよ。

西沢さん)だから「しっかり寝ないと悪いことが重なって起こる」という気持ちでやっていただいたほうが良いんじゃないかと。

杉田さん)睡眠はどんなことにとっても重要ですね。

気温だけのチェックは意味ない!? 熱中症対策には「WBGT」の値が重要

━━暑くなってくると天気予報で毎日最高気温をチェックするのですが、気温にさえ気を付けてれば大丈夫なのでしょうか。

西沢さん)「WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)」という非常に重要なキーワードがあって、これをちゃんとチェックすることで熱中症の予防につなげることができます。

杉田さん)WBGTは「湿度」「直射・輻射熱」「気温」の3つの要素を加味した、人体にかかる熱ストレスを総合的に表した指標です。

指標に占める割合は、湿度が7割、直射・輻射熱が2割、気温が1割。湿度が高いと、熱が体に留まってしまうんですよね。

━━じゃあ、テレビの天気予報で気温だけチェックしていても足りないということですか。

杉田さん)足りないです。「湿度が何%のときに、気温がどれくらいなのか」が大事ですね。

涼しい日が続いて雨が降った日の翌日で、気温は26、7度であまり高くないけれど、湿度は80%くらいで高い。そういう日のほうが実は危なかったりするんですよね。

熱中症予防情報サイトで自分の地域のWBGTをチェックしてみよう

━━WBGTは、どうやってチェックすれば良いでしょうか。

杉田さん)環境省の「熱中症予防情報サイト」で、県や市を絞り込んで指定すると、3時間ごとの数字が出てきます。

━━スマホでその数値がどんなふうに見えるのか確認したいと思います。

杉田さん)熱中症予防情報サイトの「全国の暑さ指数」の部分を押します。

西沢さん)そうすると「暑さ指数(WBGT)地図表示」と出てきます。

杉田さん)たとえば東京の府中のWBGTをみると、17.6ですね(撮影日:5月13日)。21未満だとほぼ安全という評価になります。

西沢さん)3日間の予測も出てますね。そうすると14日の12時、15時は注意が必要そうです。

杉田さん)WBGTの数値は、21〜25までは「注意」で、熱中症による死亡事故が発生する可能性がある水準になります。25〜28は「警戒」。28〜31は「厳重警戒」。31以上だと運動は原則中止になります。

杉田さん)WBGTの数値が33以上になると「熱中症警戒アラート」が出ます。スポーツ界でも、夏場の全国大会やインターハイなど、いろいろな大会のあり方が今問われてるんですよね。

━━大会の時期をずらさないといけないとか、いろいろな議論があちこちで出てきそうですね。

杉田さん)これから本格的な議論に発展するんじゃないかと思っています。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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