熱中症対策シリーズ、2回目のテーマは「2週間で熱中症に強くなる体に」。トップアスリートへの科学的支援をおこなう日本体育大学教授・杉田正明さんは「一般の人も、日常生活で暑熱順化(しょねつじゅんか)に取り組むことが大切」と語る。暑熱順化とはどういうものなのか、具体的に何をどうすれば良いのか…。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<杉田正明さんプロフィール>
日本体育大学教授ハイパフォーマンスセンター長。日本のスポーツ界におけるコンディショニング研究の第一人者であり、東京・パリのオリンピックでは日本選手団の本部役員として科学的支援を行う。

暑さに強い体をつくる「暑熱順化」で熱中症を予防しよう

━━2回目のテーマは「2週間で熱中症に強くなる体に」ですが、一気に変えるのではなく、2週間かけて徐々に慣れさせることが重要なんですか。

おっしゃるとおりです。人間の体は、すぐには変化しません。少しずつ刺激に対して適応して、体が良い方向に変わっていく生き物なので。だから「暑熱順化」といって、文字どおり2週間かけて暑さや熱に体を慣れさせます。

━━暑さに慣れている体とそうじゃない体は、そんなに違いがあるものなんですか。

大きな違いがあります。たとえば同じ環境の暑さのなかにいても、暑熱順化していないと体温が上がりやすく、汗も濃くなるんですね。

ナトリウムやカリウムなどのいろんな栄養素が濃く出てしまうので、痙攣の原因になることもあります。反対に、暑さに慣れていると体温が上がりにくくなりますし、汗もサラサラしたものが出ますね。

暑熱順化のカギは血液量の増加! 2週間で汗をかける状態に

━━暑熱順化の「2週間」という期間が気になるんですが、なぜ2週間なんでしょうか。

毎日1時間ぐらい暑い環境でトレーニングをしたときに、2週間で体の生理的な機能がどう変わっていくか調べた研究があるんですね。それで、2週間あれば暑さ寒さに関係なくパフォーマンスが発揮できるようになるとわかっています。

たとえば、今まで暑熱順化していなかった人が毎日60分程度運動すると、最初の3日ぐらいで血液の量が増え始めます。そして、血液の水分やミネラルなどが汗腺を通って汗として、外に出るようになるんです。

━━なるほど。汗をかこうと思ったら、まず血液を増やさないといけないんですね。

そうなんです。運動する際に筋肉に血液が供給されるじゃないですか。そうすると、汗を出そうとする部分と筋肉とで血液の取り合いになるんですよね。

まず体の初期適応としては、3日目から1週間ぐらいで血液の血漿(けっしょう:血液中の血球以外の液体成分)の量が増えます。そうすると血液の循環が良くなって汗もかきやすくなります。

そうなると、同じ強度で運動しても心拍数が少なくて済むようになって、楽に運動できるようになります。

給水なしで走るマラソン選手も!? 暑熱順化で起こる体の2つの変化

━━暑熱順化をすると、体にどういう変化が起きるんでしょうか。

大きく2つの変化があります。1つは、体が熱を持ったときに皮膚の下の血液量が増えて、皮膚を通して高い温度から低い温度のところ、つまり外に熱が放出されることですね。

もう1つは、かいた汗が蒸発することで気化熱が生まれて周囲の熱が奪われ、涼しくなること。この2つの変化があります。

━━汗をかくだけじゃなくて、皮膚から熱を出すことでも体温を下げることができるんですね。

そうなんです。一流のマラソンランナーでも、夏場のマラソン中に給水を一回も取らなくて良いっていう選手もいるんです。その選手はおそらく皮膚から熱を放出する機能が強いと思います。

夏の大会を左右する! アスリート界でも重視されている暑熱順化

━━先生が専門とされているアスリートのコンディショニングでも暑熱順化は大切なんですか。

はい。オリンピックや世界陸上は8月や9月などの暑い時期に開催されますので、暑熱順化はかなり重要な戦略なんですね。

東京オリンピックの開催が2013年の9月に決まったときは、2014年から暑さ対策をスタートさせて、かなりいろいろなノウハウや知見がそこで生まれました。

━━アスリートにとっての暑熱順化が注目されるきっかけはあったんですか。

1991年、東京で開催された世界陸上ですね。「日本が活躍しないといけない」ということで、本格的に暑さ対策の研究がスタートしました。

男子のマラソンでは、気温30度・湿度60%ぐらいの環境で、60人が出場して4割の24人が暑さにやられてリタイアしたんです。そんななかで谷口浩美選手が見事優勝してくれたんですね。

━━暑熱順化のトレーニングをしていたから掴めた勝利だったということですね。

はい、そう思います。

あなたは暑熱順化できている? 4つの質問でチェックしよう

━━私たちのような一般人でも、暑熱順化をするうえでやらないといけないことがあるんでしょうか。

はい。まずは、自分が暑熱順化できているかどうかチェックできる項目がありますので、お答えいただけますか。

━━私の場合、1つ目、2つ目、4つ目はイエスで、3つ目は今の時期だとノーですね。イエスが3つの場合はどうでしょうか。

4つのうち2つ以上イエスだと、暑熱順化している、または暑熱順化していくだろうと判断できます。だから、古市さんはこのまま生活していただければ、暑さに負けない体に自然になっていくと思いますよ。

━━イエスが0〜1個だった方は、これから暑熱順化を気にしないといけないんですね。

そうですね。この中で何かできることに取り組んでいただきたいです。

東京オリンピックに向けてマラソン選手の暑さ対策に取り組んでいたときも、暑さが苦手な選手が何人もいました。その選手たちに聞いてみると、みんなお風呂が暑くて苦手で、シャワーで済ませていたんです。日々の入浴って暑熱順化トレーニングになるんですよね。

汗をかく運動とお風呂…暑熱順化がスムーズに進む2つの方法

━━では、暑熱順化トレーニングとして具体的に何をすればいいのか教えていただきたいです。

やはり、汗をかく運動や、外出先でちょっとした汗をかくような活動を週3回以上する。そして、40度以上のお風呂に10分以上、週3回入る。この2つは、暑熱順化を円滑に進めるために実践していただきたいポイントです。

気を付けていただきたいのは、睡眠不足だったり仕事のストレスが溜まっていたりして、体調が悪いときです。そのときは無理して運動せず、お風呂も軽めに済ませる。体調に応じてうまくやっていただくのが大事だと思います。

食べ物も暑熱順化に関係あり! 運動直後のタンパク質が効果的

━━これまで暑熱順化について大切なことを教えていただきましたが、暑熱順化に良い食べ物ってあるんでしょうか。

タンパク質です。手軽にタンパク質を摂るなら、適度な糖分とタンパク質が含まれている牛乳は良いと思いますね。

タンパク質は、血液の量や体内の水分を調節してくれる「アルブミン」という物質を作るのを手助けしてくれるんです。ですから、アルブミンが増えれば血漿量も増えて、汗をかきやすい体になる。タンパク質が暑熱順化を促進してくれるんです。

ただし、タンパク質を効果的に摂取するには、運動が終わった直後10分以内にとると良いですね。

━━運動の直後にとるのが良いんですね。汗かいた後の牛乳というと銭湯を思い浮かべてしまいました。

お風呂でしっかり汗をかいてからタンパク質をとるのも、良いと思いますね。銭湯でのお風呂上がりの牛乳はとても理にかなっていると思います。

汗をかく運動・活動と入浴で少しずつ体を暑さに慣れさせよう

━━これまでの話をまとめると、暑熱順化をするためには大事なことが3つあるんですね。

はい。1つ目が「汗をかくような運動を30分・週3回おこなって、運動直後に牛乳のようなタンパク質を摂取する」。2つ目が「40度以上のお風呂に週3回以上、10分以上浸かって汗をかく」。そして3つ目が「運動・入浴以外のタイミングで軽い活動をして、汗をかく機会を週3回以上設ける」。

この3つがポイントになると思います。

━━今までのお話で「熱中症予防=水分を取る」という話が出てこなかったのが意外でした。

今回は、まず体の機能を高めるために、体に熱ストレスをかけて改善していくという方向性でしたので取り扱わなかったのですが、水分補給についても重要なポイントはあります。

━━水分補給もやっぱり大事ですよね。次回であらためてお伺いさせていただきます。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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