熱中症対策シリーズ、3回目のテーマは「危ない水分補給と良い水分補給」。トップアスリートへの科学的支援をおこなう日本体育大学教授・杉田正明さんは「熱中症対策には水分補給が大切だが、水分の摂りすぎにも注意すべき」と語る。なぜ水分を摂りすぎたらダメなのか、どれくらいの量の水分補給が適切なのか…。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<杉田正明さんプロフィール>
日本体育大学教授ハイパフォーマンスセンター長。日本のスポーツ界におけるコンディショニング研究の第一人者であり、東京・パリのオリンピックでは日本選手団の本部役員として科学的支援を行う。

水の飲み過ぎによる死亡事例も…知られていない「水中毒」の怖さ

━━今回のテーマは「危ない水分補給と良い水分補給」ですが、危ない水分補給ってあるんですか。

あります。1つの事例として、約20年前にアメリカのラジオで行われたある企画を紹介します。

225mlの水を15分間隔で排尿も嘔吐もせずにどれだけ飲めるか競って、一番たくさん水を飲んだ人にテレビゲーム機をプレゼントするという企画でした。

あるお母さんが、自分の息子にゲームを持って帰るために一生懸命飲んだんです。そして見事優勝してゲーム機を持って帰ったんですが、数時間後に亡くなったんですね。

その後、無謀な企画をしたラジオ局には何億円もの賠償命令が出されました。

━━そんな痛ましいことがあったんですね。水って無害なイメージですし、お腹いっぱいで飲めなくならない限りは大丈夫だと思ってしまいます。

短時間にたくさん水分を摂ってしまって身体症状が出ることを「水中毒」と呼びます。

実は、マラソンの市民ランナーの方々がこの水中毒が原因で倒れているという事例が、たくさん報告されているんです。

熱中症にならないための給水はすごく大事ですが、飲む内容・量には注意をしないと危ないということですね。

水分を摂りすぎると腎臓が処理できず「低ナトリウム血症」に

━━昔のいわゆるスポ根時代は、練習中に水分を摂っちゃいけない風潮がありましたが、今は反対に「ちゃんと水分を摂れ」となっていますよね。

もちろん給水することはとても大事ですが、水分の摂り方に気を付けようということですね。

━━闇雲に水分を摂りすぎてもダメだということですね。水分を摂りすぎると、体のなかで何が起きるんでしょうか。

短時間に大量の水だけを摂ると、腎臓が処理しきれなくて排泄できなくなります。

そうすると体中の細胞に水が溜まって、体内のナトリウム濃度が異常に低くなる「低ナトリウム血症」になるんですね。

それで、気持ちが悪くなる、脳が膨らんだ状態になる、肺に水がたまるといった状態になって、ひどい場合には亡くなってしまいます。

──水分の摂りすぎって、怖いですね。

そうなんです。吐き気や痙攣ぐらいで収まればまだ回復は早いんですが、それ以上進行してしまうと生死にかかわります。短時間で大量の水分を摂るのは、本当に危険なんですね。

あなたも当てはまる!? トイレの回数でわかる「思い込み水分補給」

━━ほかにも危ない水分補給ってありますか。

2つの「思い込み水分補給」ですね。まず1つ目は、十分水分が摂れているのに「まだ足りない」と思い込んで過剰に水分補給をしてしまうことです。

2つ目は、必要な水分が足りていないのに「自分はもう十分摂っている」と思い込んで水分不足になることです。

━━この「思い込み水分補給」に気づくためにはどうしたらいいですかね。

思い込み水分補給で「水分を摂らなきゃいけない」って思っている人は、普段から多めに水分補給をしているはずですよね。

そうすると頻繁にトイレに行きたくなると思うので、トイレの回数を確認すれば良いです。普通の水を500mlくらい飲むと、1時間以内に7〜8割ぐらいは尿になるので。

━━1日にどれくらいのトイレの回数だと普通なんですか。

2〜3時間に1回を目安と考えるので、1日に4〜5回ぐらいですね。

排泄には体の中の要らないものを尿と一緒に出す機能もあるので、尿をたくさん出すことがすべて悪いわけではありません。

とはいえ、1時間に1回トイレに行くなど、頻尿の状態になると水分を摂り過ぎている可能性があります。

スポーツドリンクは体液に近い性質で水分補給におすすめの飲み物

━━お茶やコーヒーなどいろいろな飲み物を飲んでいると、どれぐらいが適正の水分量なのか把握するのが難しいですよね。

そうですね。お茶やコーヒーは利尿作用があるので、給水したことにはなるんですが、あまり体内に残らず排泄されてしまうんですよね。

水についても、仮に適正量を摂ったとしてもナトリウムなどの体液が薄まるので、腎臓が働いて結局水分を尿として排泄してしまいます。

体に水分が一番溜まるのは、適度な塩分と糖分、あとは微量なミネラルが入っている「スポーツドリンク」です。体液と近いものになっているので、体に備蓄されやすいんですよね。

━━スポーツドリンクって、運動をするときに飲むイメージがあるんですが、スポーツをしてるとき以外でも飲んだほうが良いんでしょうか。

そうですね。特に夏場は、家の中にいても寝ていても汗をかきますので。

「スポーツドリンクは糖分が高いからあまり摂りたくない」と思う場合は、半分ぐらいに薄めて飲むなど、濃さを調節して飲むと良いですよ。

夏場の運動時は15〜20分に1回水分補給をしよう

━━アスリートも水分補給には気を付けていると思いますが、熱中症を予防するために水分補給で気を付けることは何かありますでしょうか。

夏場の運動中であれば、15〜20分に1回、200〜250mlぐらいの水分を補給していただきたいですね。湿度が高くてどうしても汗をかきますから。

水温は、ちょうど吸収が良い5〜15度がおすすめです。

━━私がたとえば皇居一周5kmを走るとしたら、15〜20分では一周できないので、ドリンクを持って走ったほうが良いんでしょうか。

15〜20分に1回というのは、アスリートの練習のように、2〜3時間など長時間運動する場合を想定した給水の目安です。

たとえば30分で5キロ走るとしたら、走る前に水分を摂って、走り終わってからまた水分を取る方法でもいいと思います。その1回だけの運動であれば。

━━短時間の運動ならスポーツの前後に水分補給すれば大丈夫なんですね。次回は熱中症や脱水になったときの対処法を紹介いただけるということですが。

そうですね。「身体冷却」が対処法における1つのポイントです。

━━自分が脱水かどうか簡単にわかるチェック法もあるんですか。

はい。尿の色を見るというチェック法です。

━━次回はそのあたりについて詳しく伺いたいと思います。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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