日本の腸内環境研究の第一人者・内藤裕二さんに、美と長寿を叶える腸活について伺う「人生が変わる!腸と腸活」シリーズ。第2回目は、内藤さんが研究している健康長寿の街・京丹後市の食生活に注目した。100歳以上の人はいったい何を食べているのか、健康的な食生活に変えるにはどうすれば良いのか…。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<内藤裕二さんプロフィール>
日本の腸内環境研究の第一人者。京都府立医科大学大学教授。1983年京都府立医科大学卒業、2001年に渡米しルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授に。帰国後、2005年独立行政法人科学技術振興機構科学技術振興調整費研究領域主幹、2009年京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授、2015年同大学附属病院内視鏡・超音波診療部部長、2021年から現職。著書に「消化管(おなか)は泣いています」ダイヤモンド社など多数。

100歳以上の割合が全国平均の約3倍!健康長寿の街・京丹後

━━先生が研究をされている地域「京丹後市」は100歳以上の方が多いということですが、ほかの場所と比べてどれくらい違うんでしょうか。

京丹後市の100歳以上の割合は、人口10万人あたり220人。東京が約60人、全国平均が約70人なので、ほかと比べて3倍ぐらい100歳以上の方が多い地域です。

京丹後の話をするとよく「田舎だから」「年寄りが多いからじゃないか」と言われます。でも全員寝たきりじゃなくて、100歳以上で毎日のように畑に行ったり海に潜ったりしている人もいます。同じ100歳でもベッドに寝転がっての100歳では意味がないですから。

見た目は元気でも体は衰えている… 暦の年齢と異なる「フレイル年齢」

京丹後の人のいろいろなデータを集めたんです。腸内細菌を調べたり、血液検査をしたり、CTを撮ったりして。今は、どなたが一番長生きするか待っている段階なんですね。

でもやっぱり健康長寿な地域ですから、こっちが先に倒れそうなぐらいで。これでは研究が成り立たないので「どうしたものか」と考えたときに思いついたのが「フレイル」です。

「フレイル」は、加齢で心身が老い衰えた状態を指します。同じ50歳でも、体がヨロヨロとしている人もいればシャキシャキとしている人もいますよね。

そこで京丹後の高齢者の握力を測ったり10mの歩行速度を測ったりして約35項目を調べた結果をもとに、暦の年齢ではなく生物学的な年齢を表す「フレイル年齢」というものを付けていったんです。

それで、見た目は元気そうに生活している人でもデータではフレイルになっていることがあるとわかったんですよ。

━━元気があるかないかって、なんとなく見かけで想像できると思っていました。

皆さん見かけは元気なのでわからないんですが、いろいろなデータを取ると15%ぐらいの人は弱っているとわかりました。

太っていて筋肉がない人はフレイルに要注意!握力で自分の状態を確認

最近面白いことがわかったんですが、太っている人の方がフレイルになっているんですね。見た目はしっかりしているけれど筋肉がないという人は弱っている。反対に、痩せている人はとても元気なんです。

━━やっぱり筋肉が大事なんですね。

筋肉は大事。握力がすごく重要です。病院に行かれたらぜひ主治医に「先生、握力を測ってください」と言ってください。握力の最低値は女性で18、男性で28。これを切っていたら2年後には寝たきりになってます、と言ってもいいくらいです。

━━それは何歳でも、その数値なんですか?

何歳でもです。

━━今すぐに握力を測りたくなりました。

食事の調査で判明!フレイルの人に不足していたのは「食物繊維」

━━いろいろな角度から研究をされて、どんなことがわかったんですか。

京丹後の100歳以上の人が何を食べているかも調べたんですが、それでわかったのは、フレイルの人たちは決してカロリー不足にはなってないということ。炭水化物も油もしっかりとっている。しかし、フレイルの人には足りてない栄養素があったんです。

━━フレイルの人に足りてない栄養素がわかったんですね。それは何でしょうか。

食物繊維です。食物繊維って便を作る素みたいに思っている人もいますが、実はすごく大事な栄養素。腸内細菌が唯一餌にしているものなんです。

それで、「食物繊維×腸内細菌」の組み合わせで京丹後の方々は元気なのではないか、というのが僕の今の仮説です。まだ分からないんですが。

食物繊維をとると健康に重要な「酪酸」を作る腸内細菌が増加

食物繊維は、たとえば炭水化物なら発芽玄米、もち麦、全粒粉のパンなど茶色系のものに豊富に含まれています。

そして食物繊維の摂取量を計算したり腸内細菌のどんな菌が増えているか減っているかを調べたりして難しい統計をした結果、実は食物繊維の摂取量と「酪酸」を作る腸内細菌が相関しているんじゃないかという仮説になったんです。

━━酪酸というのは、腸内細菌が作る成分なんですか。

寿司の酢、ありますよね。酢も酪酸も「短鎖脂肪酸」という同じグループです。この短鎖脂肪酸が体の健康にとって大事なものであることが、10年ぐらいの研究でわかってきたんです。

なかでも酪酸は、アレルギーにならないようにしたり免疫が暴走しないようにしたりと、いろいろな作用を持っています。僕らの体にとってすごい大事な短鎖脂肪酸の1つとして認識されてきているんですね。

酪酸は日本の研究者が見つけたもので、それが偶然、京丹後市の健康な人に酪酸を作る菌が多かった。そういう面もあって今話題になっています。

米国10万人調査で証明!健康な人は植物ベースの食事をしていた

━━京丹後の調査で、食物繊維と酪酸を作る菌に相関性があったということですね。

国際的な科学雑誌「Nature」でも去年、アメリカ人10万人を30年間追いかけた大規模調査のデータが発表されたんです。

その調査では、70歳になっても11個の病気を持ってなくて、認知機能が正常で、体力も維持されている状態を「ヘルシーエイジング(健康な老化)」と定義したんですね。そして調査をもとにヘルシーエイジングの人の食事ランキングを1〜8位まで発表しました。

すると1〜8位まで、ほとんどが植物由来の食品を中心とした食事「プラントベースダイエット」だったんです。明らかに動物性の脂肪・タンパクを制限して植物性の食事を中心にしている人たちが、アメリカ人の健康な老化のランキングの上位にきていました。

日本でこういう研究はできていないんですけれども、この調査は10万人と非常に規模が大きく30年間という長期間にわたるデータなので、あまり無視できないんです。

植物性のタンパク質で体に必須の「分岐鎖アミノ酸」を摂取しよう

━━アメリカの調査でも、実際に元気な人は植物ベースの食事をしていたんですね。

日本食、いわゆる和食もプラントベースダイエットなんですよ。でもプラントベースダイエットというと「葉っぱ物を食べていたら良い」と思う日本人が多くて。これではダメなんです。

日本人があまり今まで食べてこなかったナッツ類やベリー類、豆など、いろいろ工夫して摂取しないとタンパク質が不足してしまいます。筋肉はタンパク質でできてますから。

━━でも、お肉もタンパク質ですよね。

決して動物性のタンパク質が体に良くないというわけではありません。でも、肉の周りにある動物性脂肪が腸内細菌を変えて悪さをするんです。

僕らに必要なのはアミノ酸。アミノ酸を使って僕らは筋肉を作ることができますから。必要なアミノ酸は20種類で、そのうち11種類は自分で合成できるので、残りは9つあれば良いんですね。

9つのアミノ酸は必須アミノ酸といって、体の外から摂取しないといけません。中でも「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」といわれてるバリン、ロイシン、イソロイシンは絶対に取らないといけないです。そしてこの分岐鎖アミノ酸は、穀類・豆類に多い。

ヴィーガンやベジタリアンの人たちは賢くて、ちゃんと全粒穀類、穀物、豆を食べて、分岐鎖アミノ酸を十分にとっているんです。

これからの時代、我々も次の健康を考えて「タンパク質の質」を考える時代が来ている。タンパク質には植物性のものがあると、覚えておいてほしいです。

要注意!植物由来の食品なら何でも体に良いとは限らない

植物由来の食品を食べる「プラントベースダイエット」が良いと話しましたが、植物性だったら何でも体に良いというのも間違いです。

たとえば、ジャガイモはプラントベースダイエットですよね。でも、ジャガイモを粉にしてポテトチップスにしたらダメなんですよ。

━━そう例えられるとすごくよくわかります。

健康的なプラントベースダイエットもあれば、そうでないものもある。どうすれば、健康的なプラントベースダイエットができるようになると思いますか。

━━前回の「腸内細菌が私たちの食をコントロールしている」という話を考えると、腸を変えるしかないですよね。

そうなんですよ。

健康的な食事に変えるには「生きがいを持つこと」が大事

僕はこれからプラントベースダイエットが良いと伝えていきたいんですけど、それ以上に「生きがいを持つ人生」っていうのがすごく大事だと思います。生きがいがあると、そのために食事のことも考えるようになるって言われています。

たとえばお金があっただけではなかなか食事のことを考えてもらえない。でもお金ができたときに生きがいに矢印が向いたら、それが健康な食につながる。そして結果的に幸せな人生になる。そういう解析も今だんだんと進んできています。

━━生きがいがないと行動変容には繋がらないってことですよね。

「京丹後の人たちは海藻類やごぼうや豆を食べて長生きしてるから、君たちも食べなさい」と言っても誰も食べてくれませんからね。でも30年後に健康な老化の状態であるためには、今から食べる物が大事なんです。

━━体に入れるものはちゃんと成分も見て、じっくり考えて食べなきゃいけないということですね。腸と老化について引き続きお話を伺いたいと思いますので、よろしくお願いします。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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