運動の重要性はこれまで「筋力アップ」「体重減少」などさまざまな切り口で語られてきたが、実は運動には「免疫力アップ」の効果もあるという。そう語るのは運動免疫学の世界的権威・鈴木克彦さん。運動と免疫にはどのような関係があるのか、そもそも免疫は私たちの体でどのような働きをしているのか…。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。
<鈴木克彦さんプロフィール>
運動免疫学の世界的権威。早稲田大学スポーツ科学学術院教授。早稲田大学大学院人間科学研究科生命科学専攻修士課程修了後、弘前大学医学部を卒業し、国立国際医療センター病院にて臨床研修修了。2002年弘前大学医学部助手、2003年早稲田大学人間科学部専任講師、2008年同スポーツ科学学術院准教授を経て2013年より現職。
運動によって免疫がどう変化するかを研究する「運動免疫学」

━━今年(2025年)はノーベル生理学・医学賞で免疫系の研究が受賞しましたが、先生のご専門である「運動免疫学」はどのような学問なのでしょうか。
免疫は体を感染やがんから守る仕組みです。しかし一方で、アレルギーや自己免疫疾患など、免疫が過剰に働いて病気になることもあります。
だから「免疫の調節」が大事なんですね。その調節の一つとして「運動」がどのように免疫系を変化させるのかを研究しています。
生活習慣病による免疫系の暴走…それを止めるのが「運動」

━━免疫を調整するためには、運動が欠かせないんでしょうか。
そうですね。現代社会では、皆さん運動不足になっている場合が多いです。運動不足になると、生活習慣病になりますね。
そうすると生活習慣病自体が免疫系を異常に暴走させることがあります。これを「慢性炎症」というのですが、その慢性炎症の予防や治療に運動がとても良いということがわかってきています。
脂肪が出す物質で動脈硬化につながる!? 「慢性炎症」の怖さ

━━「慢性炎症」ってあまり聞いたことがないんですが、どういうものでしょうか。
たとえば、運動不足だと肥満になりやすくなります。肥満は体のなかに脂肪が過剰に蓄積した状態なんですが、この脂肪が炎症を起こす物質を出していることが研究によってわかってきました。

慢性炎症は、このように炎症を起こす物質が体内で慢性的に出ている状態です。具体的には、動脈硬化が引き起こされるメカニズムに慢性炎症が関係していることがわかってきています。
「運動は薬」が標語に!国際学会も注目している運動の効果

炎症というのは免疫系が過剰に活性化している状態で、免疫系の暴走といってもいいと思います。
その炎症を運動が抑えてくれる、運動が薬のように働くということで、今は「Exercise is Medicine(運動は薬)」という標語でいろいろな国際学会のテーマとして注目されてきています。

━━「運動が薬のように働く」といわれているとのことですが、運動が免疫力をアップさせるんでしょうか。
免疫の異常な反応を抑えるために運動が良いといわれています。また、生活習慣病を予防したり抑えたりすることで免疫力が高まることもあります。
そのため、運動して慢性炎症や生活習慣病を減らすと、結果として免疫力を高めることにつながるといえると思います。
免疫細胞は一つじゃない!? 病原体から体を守る免疫の働き

━━先生にお伺いしたいんですが、そもそも免疫とは何なのでしょうか。
簡単に言いますと、体のなかにいる「白血球」が、体に入ってきたウイルスや細菌などの病原体を排除して体を守る働きです。また、体のなかで発生するがん細胞も体には害になるので白血球がやっつけます。
━━免疫というと「外から来た悪いやつをやっつける」というイメージがありましたが、「免疫=白血球」とは結びつきませんでした。
実は、免疫細胞(白血球)は一種類ではなく、たくさんの種類が協力してチームワークで病原体と戦っています。

実際に体の至るところに免疫細胞がいて、たとえば傷口から侵入する病原体には皮膚にいる免疫細胞が対抗します。血液中から白血球が必要なところに配備されて体を守っているんですね。
━━では、体内で免疫細胞が活躍してくれる状況を作るために、先生がいろいろな研究をされているということになりますか。
そうですね。
免疫力アップには栄養・運動・休養・ストレス回避が重要

━━免疫力をアップさせるには、何が大事になりますか。
免疫が働きやすくなる環境を体のなかに作ってあげることが、免疫力アップになると思います。免疫細胞はいろいろな栄養素を材料としてできているので、まず「栄養」が大事です。特に、白血球の一種・B細胞が作る「抗体」はタンパク質でできてます。
また、ビタミンCを取らないとタンパクの合成ができません。そういった意味で、バランスよく栄養を摂るということが大事になります。

続いて大事なのが「運動」です。生活習慣病は免疫力を下げるので、慢性炎症や生活習慣病を改善するという観点で運動は非常に重要だと思います。
運動すると血流が盛んになって免疫細胞が体のなかを循環するので、病原体を早く見つけてやっつけることもできます。

また、免疫力アップには「休養」も大事ですね。運動すると疲労が溜まります。疲労を回復させるという意味で休養を取る、特に睡眠をしっかり取ることが免疫力を改善するうえで重要です。
あと、免疫はストレスに弱いです。そのため、気分転換をするなどしてストレスのホルモンが出る状態を避けることが、免疫力アップにつながると考えられます。
運動による免疫力アップが、がんの再発防止・予防にもつながる

━━運動が免疫力アップにとって有効だということですが、免疫細胞ががんを治療してくれると考えてもいいものなんですか。
そこまではいえないです。しかし、がんの治療には、抗がん剤を使う化学療法・手術・放射線療法の3つの方法があって、これらは副作用として免疫が落ちてしまうんですね。

その結果、かえってがん細胞が増殖しやすくなってしまうことがあるので、治療の副作用を減らすために運動が良いとされています。また、運動するとがんの再発防止や予防にもつながることがわかってきています。
━━運動と免疫について、ますます興味が湧いてきました。次回は免疫力をアップさせる運動について先生にお話を伺いたいと思います。
(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)
■お知らせ
本記事に関連し、早稲田大学スポーツ科学学術院の 鈴木克彦教授 が大会長を務められる 第17回国際運動免疫学会シンポジウム(ISEI 2026 Tokyo)が、2026年8月27日(木)~30日(日)に早稲田大学にて開催されます。詳細につきましては、以下の公式ページをご覧ください。
👉 https://katsu.suzu.w.waseda.jp/ISEI2026_Tokyo_J.html 公式案内ページ
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