体内の慢性炎症を抑えて免疫力アップにつながる「運動」。国際学会では「運動は薬」という標語が生まれるほどその効果に期待と注目が集まっている。免疫力を高めるにはどのような運動をすればいいのか、運動を続けると具体的にどのような効果が得られるのか…。運動免疫学の世界的権威・鈴木克彦さんに日本テレビホールディングス・古市幸子がインタビューをおこなった。

<鈴木克彦さんプロフィール>
運動免疫学の世界的権威。早稲田大学スポーツ科学学術院教授。早稲田大学大学院人間科学研究科生命科学専攻修士課程修了後、弘前大学医学部を卒業し、国立国際医療センター病院にて臨床研修修了。2002年弘前大学医学部助手、2003年早稲田大学人間科学部専任講師、2008年同スポーツ科学学術院准教授を経て2013年より現職。

免疫力アップに運動は不可欠!適度に体を動かすことが大事

━━免疫力をアップさせるためにやるべきは何でしょうか。

まず適度な運動が大事です。それからバランスの良い食事、十分な休養・睡眠をとること。それから疲れやストレスを溜めない。これらが重要と考えていただければと思います。

━━そのなかでも運動が注目されているということですが、運動なら何でもいいというわけではないんでしょうか。

運動しないと免疫力は高まりません。適度な運動をすると風邪をひきにくくなったり、抵抗力が増したりします。

激しい運動は逆効果!ストレスで免疫力の低下につながる

たとえばマラソンやトライアスロンのような激しい運動をすると、逆に免疫力が低下することが分かっています。マラソン参加者の50〜70%ぐらいがレース後2週間の間に風邪をひいたという報告があるくらいです。風邪の症状が出てくるということは免疫力が低下しているんだろうということが言われています。

━━運動しすぎるとそんなにわかりやすく免疫力が落ちちゃうんですか。

免疫系の細胞はストレスに弱いことがわかっていて、激しい運動はストレスの1つなんです。

筋肉が壊れたり息が上がってドキドキする状態がずっと続いたりすると、体にとってはエネルギー不足になって非常に危機的な状況に陥ります。激しい運動は免疫系によくないということがいえると思います。

免疫力を高めたいなら体を追い込まない程度の運動にしよう

たとえば坂道を上っていくと息が上がってくると思いますが、その状態が、適度な運動から体を追い込むような激しい運動に変わりつつある段階です。

こちらの図は、縦軸が感染のリスク、つまり風邪などの引きやすさを示しています。横軸は身体活動の量です。適度な運動をしていくと感染のリスクは下がってくるんですが、激しい運動をすると感染のリスクは逆に上がっていくんです。

━━先日この番組で紹介した、ややきつい歩き方とゆっくりした歩き方を交互にする「インターバル速歩」は免疫力アップに有効と考えてもいいですか。

個人差はあると思いますが、きつくなる前のところで行えば適度な運動だといえると思います。きつすぎる場合は負荷を減らして行うなど、個々の体力に合わせて行うことが必要です。

免疫細胞が全身を巡る!運動による免疫力アップの仕組み

━━運動をすることで、体や免疫にどのような変化が生まれるのでしょうか。

運動で心肺機能が高まれば疲れにくくなるので、運動を続けやすくなって「持久力」がつきます。また、運動をすると代謝も高まるので、冷え性の改善にもつながります。そして体質が改善して血液循環が盛んになれば、免疫細胞が全身を巡りやすくなって免疫力のアップにつながるといえます。

数分でもOK!生活のなかに「細切れ運動」を取り入れよう

最近「細切れの運動」と言ってるんですが、運動時間が1日合計で1時間になればいいんじゃないかと思います。たとえば、通勤で1つ前の駅で降りて歩いてみる、エスカレーターじゃなくて階段を上ってみるなども立派な筋トレになります。

それから、スクワットのような軽い筋トレもやっていただいて、生活の中にある運動の機会を見つけて筋肉に刺激が入るようにしていただきたいです。

動脈硬化や認知症の予防にも!筋肉が出すホルモンの効果

━━運動で筋肉に刺激が入ることで、免疫にはどのような影響があるでしょうか。

今研究中ではあるんですが、筋肉は収縮・弛緩する運動を行う「運動器」だけじゃなく、ホルモンなどの生理活性物質を出していることが最近わかってきました。

骨格筋から分泌されるホルモンの総称「マイオカイン」は、慢性炎症を抑えたり動脈硬化を防いだり、脳の機能にも働いて認知症の予防にも役立つことが分かってきました。筋肉が体に有用な物質を作って、それを血液中に放出して、全身のいろんな臓器に送って状態を良くしてくれるんです。

薬よりも効果あり!? うつ病の治療にも採用される運動の魅力

脳の機能に働くという話でいうと、実際にうつ病の治療として患者さんに運動をやってもらってとても良くなったケースもあります。人によるんですが薬よりも運動のほうが効果が出る場合もあるので、運動も試していただければと思います。

━━実は私、筋トレが嫌いなんですけど、そこまで聞くとちょっとやらなきゃと思うようになりました。

頑張りすぎると筋肉が壊れてしまうので、壊れない程度に刺激を入れてやることがとても大事です。

運動はがんの再発防止・予防にもつながると注目されている

━━がん治療のなかでも運動を取り入れたものがあると聞いたんですが、これはどういったものでしょうか。

がんを発症して治療が済んだ人に運動してもらうと、再発がかなり抑えられるということが明らかになっています。たとえばアメリカの乳がん学会では治療のガイドラインのなかに運動療法が入っていて、日本の乳がん学会も運動を勧めているんですね。このように、がん治療の一環として運動が非常に重要視されてきております。

いずれにしても、適度な運動は体の悪くなった状態、病気になったものを改善することにつながります。特に大腸がんに関しては運動に予防効果があって、運動してる人は運動不足の人よりも大腸がんになりにくいことがだいぶ前からわかっています。

世界保健機構も、大腸がんの予防として生活習慣で一番効果があるものとして運動を挙げているんです。ただ、メカニズムまではよくわかってません。

━━もう運動はこれからの健康に欠かせないものだと改めて感じさせられますね。では次回は、免疫力アップのために効果的な運動以外の方法についてもお伺いします。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)

■お知らせ
本記事に関連し、早稲田大学スポーツ科学学術院の 鈴木克彦教授 が大会長を務められる 第17回国際運動免疫学会シンポジウム(ISEI 2026 Tokyo)が、2026年8月27日(木)~30日(日)に早稲田大学にて開催されます。詳細につきましては、以下の公式ページをご覧ください。
👉 https://katsu.suzu.w.waseda.jp/ISEI2026_Tokyo_J.html   公式案内ページ


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