インフルエンザなどの感染症が流行して普段よりも体調管理に気を遣う冬の季節。「体調を崩さずに冬を乗り越えたい」と考える人は多いはず。そこで話を伺ったのは、真冬のレースである箱根駅伝で監督としてチームを過去3回の総合優勝に導いた名将・上田誠仁さんと、コンディショニング研究の第一人者・杉田正明さん。科学的アプローチで導き出される冬の体調管理術について、日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。
<杉田正明さんプロフィール>
日本体育大学教授。ハイパフォーマンスセンター長。日本のスポーツ界におけるコンディショニング研究の第一人者であり、東京・パリのオリンピックでは日本選手団の本部役員として科学的支援を行う。
<上田誠仁さんプロフィール>
山梨学院大学教授。元陸上競技部監督。順天堂大学時代の箱根駅伝で選手として5区の区間賞を2度獲得。1985年に山梨学院大学監督に就任し、2年後に箱根駅伝初出場を果たす。監督として過去に総合優勝3回、準優勝5回、シード権獲得20回の実績を誇る。
出会いは30年以上前!箱根駅伝名将とコンディショニング研究者のつながり

━━杉田先生と上田先生の出会いは、どこだったんでしょうか。
杉田さん)1993年にアメリカのコロラド州で日本陸上競技連盟の長距離マラソンの合宿があったんですね。それで僕がサポートとして約1ヶ月間行かせていただいたときに、同じ部屋だったというご縁がありました。

上田さん)杉田さんが長距離ランナーにとって何が大事か科学的に分析されている姿を、興味津々で見ていました。夜な夜な盛り上がって楽しい時間でしたね。
乾燥・免疫低下・換気不足…冬に風邪を引きやすい3つの理由

━━まず杉田先生の科学的な知見をお伺いしたいんですが、そもそもどうして冬は風邪を引きやすいんでしょうか。
杉田さん)風邪は、基本的にウイルスに感染して起こる症状なんです。冬場は空気が乾燥して喉や鼻の粘膜が乾くので、ウイルスに対するバリアが弱くなるんですね。

また、気温が寒くなると免疫力も落ちてしまいます。さらに、室内の換気ができていないと、ウイルスが蔓延しやすくなります。

━━体感としても、乾燥で喉や鼻のあたりがヒリヒリして、変なものを引きつけやすくなる感じがします。
杉田さん)そうですよね。そういう状況なので、ウイルスが体のなかに入ってしまい、風邪を引き起こすわけです。
アスリートは風邪を引くリスクが高い!? 運動と免疫の関係

━━冬の乾燥した空気のなかでハードな練習を積むアスリートは風邪のリスクがさらに高まると聞いたんですけれども、これはどういう状況なんでしょう。
杉田さん)ハードなトレーニング後は一時的に免疫力が低下します。具体的には「J曲線」というものがありまして、横軸が運動の強度・量、縦軸が感染のリスクを示しています。

適度な運動をすると免疫力は高まるんですけど、運動の強度や量が適度な範囲を超えるとだんだん感染のリスクが高まります。アスリートは、この図で言うとだいぶ右側の方でトレーニングをしていますから、いつ風邪を引いてもおかしくない状況ですよね。
━━上田先生、箱根駅伝の選手もハードなトレーニングの後に風邪を引きやすいという傾向はありましたか。
上田さん)そうですね。箱根駅伝の約1か月前は結構きつい合宿をやるんですが、「調子がよくなってきたな」と思うと選手がインフルエンザに感染して、区間を変えなければならなくなるということがありました。

ハードなトレーニングをすると、体の免疫力も低下します。喉の粘膜も激しい呼吸で炎症を起こしやすくなっているんですよね。また、大きな大会が近づくと、ストレスも抵抗力を弱める一因になります。
ルーティン化がカギ!箱根駅伝名将の「冬の生活術4選」

上田さん)細かいことなんですけれども、選手には「換気をちゃんとする」「首・手首・足首を冷やさない」「食事は末梢循環を良くするものやビタミンCを多めに取る」「ぬるめの湯に長く入ったり生姜を食べたりして末梢循環を良くする」といったことを心がけさせます。

━━末梢循環を良くするとは、どういうことでしょうか。
上田さん)末梢循環は、手足などの末端にある血管の血液循環のことです。これが悪くなってくるといろいろな組織の抵抗力が弱くなってきてしまいます。そのため、末梢循環を良くして、少しでも抵抗力を高めて疲労の回復も早めるようにしています。

━━1つずつ実践していくことが大事なんですね。
上田さん)そうですね。一時的に頑張るのはストレスになってしまうので、習慣にしていかないといけません。チームのルーティーンに定着するように指導して、ストレスフリーで本番を迎えるのが1番良いですよね。そうでなくてもプレッシャーがありますので。
換気と湿度の両立が重要!風邪や感染症を防ぐ生活術

━━杉田先生、風邪や感染症にならない普段の生活では何が大切でしょうか。
杉田さん)上田先生がおっしゃったように、体を温めて血を巡らせることが大切です。そうすると副交感神経の活動が高まって、リラクゼーションやリカバリーに役立つんですよね。

また、手で顔を触ると鼻や口からウイルスが入りやすいので、しっかり手を洗ってなるべく手は顔に近づけないことも大切です。さらに、空気の入れ替えと50〜60%の湿度を両立させることも重要ですね。
箱根駅伝名将が取り入れてきた「科学的な体調管理」の方法

━━上田先生は、選手の体調管理に科学的方法を導入した先駆者として知られていますが、真冬のレースである箱根駅伝で具体的にどのような方法を導入されたのでしょうか。
上田さん)まずは血液の状態ですね。これは一番正直に結果に現れます。大会では長距離を走りますから、俗に言う「貧血」の状態だと選手がどんなに頑張ろうと思っても体がついてきてくれません。

そこで、筋肉の疲労度が高い選手に関しては早めにトレーニングの手法を変えて、選手のピークパフォーマンスを個別に調整していくようにしました。また、同じトレーニングをしたときの心拍数や乳酸値を、良い記録を出したシーズンと比較するなどして、総合的にチェックしますね。
箱根駅伝名将が取り入れてきた「科学的な体調管理」の方法

━━上田監督は、最初から科学的なトレーニングメソッドをお持ちだったんですか。
上田さん)大学時代にスポーツ生理学が大好きで学んでいたので、基本的な部分はありました。そのあと、日本陸連の合宿で杉田さんに出会って心拍数の計測や高地トレーニングなど科学的なアプローチに関する話をして「さっそく指導に取り入れよう」となりました。
それで30年前、心拍測定の機器をいくつか買って、すぐ導入しましたね。

━━科学的アプローチは、最初から効果が出たんでしょうか。
上田さん)生理学的なメソッドがあるので、それに則ってトレーニングを管理しましたね。鍛えることは大事ですが、休ませることもすごく大事なんです。そういうことも杉田さんからアドバイスいただいたので、そのまま「いいとこ取り」しました。
受験シーズンに役立つ!心も体も整える体調管理の考え方

━━今の時期、受験生の方なども自分のコンディションを整えるのに苦労されている時期だと思うのですが、こういった方に関してはどうアドバイスされますか。
上田さん)私は基本的に「体は食べたもので作られる」「心はかけてもらった言葉で作られる」と考えています。そして未来は、自分が「こうなりたい」と目標を立てた言葉によって作られる。

だからアスリートには、食べることも大事にしなさいと伝えますし、なるべく前向きな言葉で心を上げようとアドバイスします。
たとえば「俺は〇〇で勝ちたいんだ」「インカレに出場するんだ」など自分自身で目標を設定して言語化すると、自分が本当にそれをやっているんだという気持ちになる。そういう雰囲気作りやチーム作りを目指してきました。

━━冬の時期は受験生をサポートする親御さんや周りの家族なども少しピリつくと思うのですが、そういった方にはどんなアドバイスがありますか。
上田さん)食べたもので体が作られることを考えると、やっぱり食事のコントロールですね。高価なものでなくていいので、栄養バランスが取れたものを、楽しく食べることが大事です。
ポジティブな声かけも大切ですね。「ちゃんと勉強やりなさい」じゃなくて、「今日も頑張ったね」「ご苦労さん」と声がけをして、家族の間で和らいだ雰囲気を作る。

━━杉田先生は受験生や親御さんにどのようなアドバイスをされますか。
杉田さん)上田先生がおっしゃったような雰囲気作りはすごく大事だと思います。そして、朝決まった時間に起きて光を浴び、食事をとり、お風呂に入って寝るといった生活のリズムを入試に向けて作っていくことも大事です。
━━基本を大事にするということですね。次回は「冬の風邪&感染症ゼロ食事術」について詳しくお伺いしたいと思います。
(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)
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