真冬の国民的な駅伝大会・箱根駅伝で監督としてチームを優勝に導いた上田誠仁さんと、コンディショニング研究の第一人者・杉田正明さんに、冬の体調管理術を教えてもらう本シリーズ。第2回となる今回は、箱根駅伝選手が実践している食生活や冬に戦える体の作り方について、日本テレビホールディングス・古市幸子がインタビューをおこなった。

<杉田正明さんプロフィール>
日本体育大学教授。ハイパフォーマンスセンター長。日本のスポーツ界におけるコンディショニング研究の第一人者であり、東京・パリのオリンピックでは日本選手団の本部役員として科学的支援を行う。

<上田誠仁さんプロフィール>
山梨学院大学教授。元陸上競技部監督。順天堂大学時代の箱根駅伝で選手として5区の区間賞を2度獲得。1985年に山梨学院大学監督に就任し、2年後に箱根駅伝初出場を果たす。監督として過去に総合優勝3回、準優勝5回、シード権獲得20回の実績を誇る。

ゲン担ぎのカツ丼より生姜焼き!? 箱根駅伝選手の食生活

━━上田先生、箱根駅伝の選手たちにどんなものを日々食べるように指導されていましたか。

上田さん)長期的には、栄養のバランスの取れた食事をきちんと取っていくように指導してきました。トレーニングをするので炭水化物を取らないといけませんし、タンパク質を摂取しないとトレーニングの効果が上がりません。また、体調面を考えるとビタミンやミネラルも必要です。

大会の直前や前日になるとよく「勝つためにはカツ丼だ」とカロリーの高いものを摂りがちです。しかし、脂っこいものを食べると消化にエネルギーを使ってしまったり、胃が疲れてしまったりするんですね。

だから同じ豚を食べるなら、たとえばポーク生姜焼きを食べるようにする。そうすると、エネルギーに還元するためのビタミンも取れますから。また、副菜としてビタミンBを摂ったり、感染症予防でビタミンCやビタミンAを摂ったりします。

また、受験生の場合だとDHA(ドコサヘキサエン酸)をとると、脳細胞の活性化が期待できるのではと思います。

本番前だけ気をつけても意味なし!長期の食事管理が成功の秘訣

上田さん)人間の体はだいたい3か月ぐらいで細胞が入れ替わるので、大会の前だけなど、一時期だけ栄養バランスに気を付けても意味がないんですね。

箱根駅伝の場合は1時間近く体を動かさなきゃいけないので、特に炭水化物はしっかり取っていかないといけない。「試合の前で練習量も落ちてきたから炭水化物は軽めでいいや」となると、本番でエネルギー切れを起こしてしまう可能性も考えられます。

持久力が必要なスポーツの場合は、「カーボローディング」という大会の数日前は多めに炭水化物を積み上げていくような食事法を活用することもあります。

栄養バランスだけでもダメ!おいしいと脳が喜ぶ食事も大事

杉田さん)僕が現場にいて思うのは、理論的にはタンパク質や糖質などの栄養素を計算してメニューが出来上がるんですが、選手はそのときどきで食べたいものがあるんですよね。

だから、栄養バランスを考えたうえで、目で見て「美味しそうだ」と思えたり「こういうものが食べたかった」と感じられたりする食事を提供できる栄養士は優秀だと感じます。やっぱり脳が喜ばないと消化吸収体が作られないと僕は思うんですよね。

食べ過ぎて体重増加!? 来日した外国人選手の食事管理エピソード

━━上田先生が監督をされていた山梨学院大学は、かなり早い時期から外国人選手が活躍していましたよね。

上田さん)はい。私が監督になった頃、東アフリカの選手がどんどん日本に来て走っていたんですね。それで箱根駅伝の初出場を決めた予選会のすぐあと、東アフリカの選手が強い理由を知りたくて、ケニアに行きました。

そのとき、ジョセフ・モガンビ・オツオリ選手に出会ったんです。彼はすごく真摯に取り組む選手でした。

たとえば朝6時の集合のとき、彼はすでに体を作ってから練習に来ていて、汗をかいているんです。この彼の影響で、だんだんチーム全体のスタート時間も早くなったくらいでした。

━━外国人選手が来日したばかりのころは、食事で戸惑われることもあったんじゃないかと思いますが、どうでしょうか。

上田さん)最初は日本という何でもある文化圏に来て、彼らが食べすぎたり体重が増えちゃったりすることもあって。当時は各部屋で自炊していたので、たとえばジャムがあるとパンの両面に塗ったりしていました。

骨粗しょう症・メンタル悪化…選手も陥る痩せ過ぎの危険性

━━選手の体調管理において、体重はやはり大事ですか。

上田さん)はい。体重が増えるとそれだけ消費酸素の消費量が増えますから。しかし、じゃあ痩せれば良いかというと、痩せすぎても非常に危ないんです。

特に女子選手は体脂肪率が10%を切ると生理が止まってしまうんですよね。高齢の女性に多い骨粗鬆症に、中高生でなってしまう事例もあります。こういう危険なことをスポーツの世界でやってはいけないですし、当然スポーツ科学もこれを推奨しません。

男子選手でも、一流選手だと10%を切るくらいにきているんですが、あまりにも突き詰めてしまうとメンタルのコントロールが難しくなります。長距離選手は真面目で、真っ直ぐ突き進み過ぎてしまうこともあるので、そこを止めなきゃいけないこともあるんですよ。

戦える体を作るには「しっかり食べて動く」の基本が大事

━━では杉田先生、体重を管理しつつちゃんと戦える体にするためには、どのような食事の取り方をしたら良いでしょうか。

杉田さん)究極を申し上げますと、しっかり食べて、しっかりトレーニングをすることに尽きるんですよね。

一時的に体重を落として試合に出れば速く走れるかもしれませんが、エネルギー不足ですので免疫やホルモンなどいろいろなところに悪影響が出ます。結局、練習を継続できず、やる気も落ちて、結果も伴わない。だから、エネルギー不足をどうしっかり補うかが大事です。

エネルギー不足になると、1番重要なホルモン、女性でいうとエストロゲン、男性でいうとテストステロンのレベルが下がってしまいます。

ですから、腹8〜9分目ぐらい食べられて、しっかり毎日練習ができて、朝起きたときに体調がいいかどうか。これに尽きます。また、自分の一番良い体重をちゃんと知っておくことも大事だと思います。

上田さん)おっしゃるとおりだと思います。たとえば、アパートで自炊している選手の食事はなかなか把握しづらいんですが、どんな工夫をしたらいいか、よく選手と一緒に走りながら考えています。たとえば低温調理の方法とかですね。

━━走りながら調理術のことまでお話されているんですね。

上田さん)「これをやれ」というよりも「これを食べたらおいしかったんだよね」というような話をして、「俺も作ってみようかな」となんとなく興味を持ってもらう。そういう雰囲気のほうが良いと思って、やっています。

冬は不足しがちなビタミンDを積極的に摂って免疫を高めよう

━━杉田先生、一般の方や受験生の方へ、冬の体調管理のアドバイスをお願いします。

杉田さん)食事には「脳が働く食事」と「体の免疫力を高める食事」の2つがあります。免疫力を高める食事は、やはり肉や魚です。特に青魚にはDHAやEPA、オメガ3系の油が含まれていて、脳にも良いんですよね。

それから、免疫力にはビタミンDが大きく関係します。冬は日照時間が短くて体のなかでビタミンDが作られにくいので、ビタミンDを多く含む青魚や鮭を食べるようにするなどですね。

━━冬はビタミンDがいつもよりも少なくなるから、補うぐらいの気持ちでいたほうが良いですか。

杉田さん)そうですね。あとは、抗酸化力のある野菜を摂ることも良いと思います。また、脳には水分・糖分・塩分が大事ですね。

━━ビタミンDが不足しがちであることは、冬の体調管理において一つのポイントかもしれませんね。次回は「冬に負けない休養術」についてお伺いしたいと思います。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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