スポーツ界のコンディショニング研究の第一人者・杉田正明さんと、自身もアスリートである株式会社TENTIALのコンディショニング研究所所長・舟山健太さんとのコラボ企画。第二弾の今回は、冬バテ解消のカギである「睡眠の質」がテーマ。「手足が冷えて寝つきが悪い…」「年末年始で生活リズムが乱れた…」そんな悩みを抱えやすい冬場でも快眠するための具体的な実践法について、日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<杉田正明さんプロフィール>
日本体育大学教授。ハイパフォーマンスセンター長。日本のスポーツ界におけるコンディショニング研究の第一人者であり、東京・パリのオリンピックでは日本選手団の本部役員として科学的支援を行う。

<舟山健太さんプロフィール>
リカバリーウェア「BAKUNE(バクネ)」で知られる株式会社TENTIALの執行役員CRO。コンディショニングに関する基礎研究や商品・プログラムの実証実験、睡眠に関するセミナー・啓蒙活動などに取り組む。脳科学研究もおこなっており、サバット(フランス式キックボクシング)の日本代表選手でもある。

冬バテ解消のカギ!実は一番削ってはいけない「睡眠時間」

━━前回「水分を取る」「ビタミンDを作る」「生活のリズムを整える」などが冬バテ解消の実践法として上がりましたが、睡眠の質アップも冬バテ解消につながるんですか。

杉田さん)はい。たとえば、夜に暴飲暴食をして寝るまでの間に1時間半しかなかったとします。そうすると血液が消化のほうに働くので、交感神経が優位になって寝つきが悪くなったり、睡眠の質が悪くなったりということが考えられますね。

舟山さん)脳と体のリカバリーを一度に実現できるのは睡眠しかないと思っているので、睡眠はとても大事なものだと考えています。みなさん、生活の時間のなかで最初に削るのが睡眠だと思うんですけど、実は1番削っちゃいけないものだと自分は認識していますね。

杉田さん)おっしゃるとおりです。睡眠時間を削るのは、ガソリンを入れないで車を走らせるようなものですね。

舟山さん)本来は寝た直後に深い睡眠に入って、だんだん睡眠が浅くなって朝起きるという仕組みになっています。ただ、寝る前に暴飲暴食をすると、血液が胃や腸にとられてしまって睡眠が浅くなり、夜の途中で目が覚めてしまうことにもつながります。

つまり寝た直後にどれだけ深い睡眠に入れるかが重要で、そのためには寝る前の行動がすごく大事になってきます。最初にどれだけ深く眠りに入れるかが、全体的な睡眠の質に関わると今の研究では言われています。

布団に入っても眠れない…冬の睡眠の質を下げる「手足の冷え」

━━冬の寒さっていうのは睡眠にどう影響しますか。

舟山さん)体には「熱を逃がそうとしているときに眠くなる」という性質があるんですね。しかし冬場で手足が冷えていると、布団に入っても体の熱を逃がせず眠りにつきにくくなる、ということがよく起こります。

杉田さん)体が熱を逃がそうとするときに、手のひらと足の裏にある「動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)」が開いて熱を出すんですね。

だから手足が冷えてしまったら、もう一度温めてあげて動静脈吻合を開かせて体全体の熱を逃し、それからぐっすり眠る。こういうやり方が必要だと思います。

冬の快眠のコツは「メラトニン」と「手足の保温・放熱」

杉田さん)睡眠を促す「メラトニン」というホルモンは、朝目覚めて光を浴びてから15〜16時間ぐらいするとピークが来ます。

そのピークのときに、手のひらと足の裏を手袋や靴下などで少し保温してあげる。そして寝る前にそれらを取れば、体から熱が逃げていきます。これは、僕が一番効果があると思っています。

舟山さん)私も、手足が冷えて寝られなくなるのが嫌で、冬はお風呂に入った後に絶対靴下を履きます。

入眠前に副交感神経を高めてくれる「ストレッチ」もおすすめ

━━手足を温めるようにすること以外には、どんなことをすればいいでしょうか。

杉田さん)ストレッチですかね。副交感神経が高まってリラックスできるので。膝を持って太ももの裏を伸ばしたり、少し体を横にひねったり伸ばしたりなど、簡単なもので良いです。

━━副交感神経を高めることが大事なんですね。

舟山さん)日中活動しているときは交感神経がオンになって、寝るときは副交感神経が高まって寝る。これが本来の人間のサイクルなんですね。

しかし、現代人は仕事などが忙しすぎて、寝るときも交感神経がオンの状態で寝ようとしちゃう方が多い。それで睡眠の質も悪くなってしまうんですね。

だから寝る前にいかにどうやってリラックスして副交感神経を働かせるかがとても大事になってきます。

アスリートも実践!寝る前にリラックスできる「呼吸法」

舟山さん)私は寝る前にリラックスできる呼吸法を実践しています。基本的には、息を吸うと交感神経が働いて、息を吐くと副交感神経が働きます。ですから、息を吐くほうがリラックスにつながるんです。

「5秒で吸って10秒で吐く」を4〜10ターンやっていただくだけで、寝るための準備になっていくと思いますよ。

呼吸法以外にもリラックスする方法はたくさんあるんですが、私が呼吸法を取り入れているのは、自律神経(交感神経と副交感神経の総称)に介入しやすくなるからです。

自律神経は、その名前のとおり自律しているので、自分の意識ではコントロールできません。たとえば「心臓を今止めてください」とお願いしても止められないですよね。

しかし呼吸は、普段から無意識にしているものでもあり、止めようと思えば止められるものでもある。つまり、自律神経と意識の両方でコントロールできるのが呼吸なんです。

夜に快眠できるかは日中に決まる!知っておきたい「睡眠圧」

━━これまでのお話を考えると、夜寝る前のルーティンも含む「生活全体のリズム」が大事ということですね。

舟山さん)杉田先生も口酸っぱく言ってくださっていると思うんですが、夜の睡眠のために朝陽の光を浴びることが大事です。朝起きたときから夜の睡眠が始まっているんですね。

また、運動した方が「睡眠圧」がたまって夜眠りやすくなります。だから、日中の活動と寝る前の活動で決まるんですね。意識を失ってからいい睡眠を取ろうと思っても無駄です。

日中に疲れすぎて熟睡できなくなる「疲労性ハイ」の対処法

━━日々の運動の強度によって睡眠の質も変わりますか。

舟山さん)変わります。疲れすぎて興奮状態になってしまって寝られないケースもありますね。スポーツ選手に多いですよね。ナイターの試合後に寝られないとか。

杉田さん)多いですね。「疲労性ハイ」というものですね。

━━杉田先生は、そのようなケースに対してどのような指導をしていらっしゃるんですか。

杉田さん)「ぬるめのお風呂に入る」「部屋を暗くする」、あとは舟山さんがおっしゃったような「ストレッチ」「呼吸」、それに「アイマスク・耳栓をして寝る」などが良いと伝えていますね。

睡眠不足や生活リズムの乱れは「朝ごはん」でリセットしよう

━━疲労などもあってうまく睡眠が取れなかったとき、回復の方法として気を付けていらっしゃることはありますか。

舟山さん)「自分の生活リズムを戻す」ということですね。そのために、ちゃんと3食とるようにしています。朝ごはんを抜く方って多いと思うんですが、寝不足になったときほどちゃんと朝ごはんを食べて、生活リズムの乱れを1回リセットすることが大事だと思っています。

━━睡眠に関する食べ物について、何か気を付けていることはありますか。

舟山さん)糖質とタンパク質と脂質のバランスは、すごく気にして食べていますね。基本的に私はあまり糖質オフをしないようにしていて、3食ともちゃんと糖質を摂っています。

杉田さん)血を巡らせることを考えると、やっぱりサケやサンマ・アジ・サバ・イワシなどの青魚ですね。EPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸が、血液の中の中性脂肪を下げてくれたり、抗炎症の働きをしてくれたり、血液をサラサラにしてくれたりします。

寝不足のときは隙間時間の「昼寝」で睡眠負債を解消しよう

杉田さん)あとは「昼寝」も睡眠不足の回復法の一つですね。隙間の時間にちょっとずつでも寝ると睡眠負債が解消できるので、結果として仕事がすごくはかどります。

舟山さん)私も、昼寝を悪いことだとは思ってなくて、「もう頭が働いていないな」って思うときは20分ぐらい昼寝をします。

寝る前のスマホはやはり良くない…光と睡眠不足・うつの関係

杉田さん)寝る1時間前から携帯を見ないことも大事です。冬に外で光を浴びる時間が長い人ほどうつになりにくく、夜に光を浴びている時間が長い人はうつになりやすいんですね。

ですから、昼間はできるだけ外で光を浴びて、夜はできるだけブルーライトや照明などの光を遮断することで、うつっぽい症状を抑えたり睡眠を改善したりできます。

舟山さん)もともと私は製薬会社でうつの研究をしていたんですが、うつ病の中で併発率が高いのが不眠症なんですね。きっと、夜に光を浴びて寝づらくなり、睡眠不足がどんどん続き、気持ちが落ちて病気になりやすくなる。そのような相関があると思います。

杉田さん)だから、夜ちゃんと眠るためにも、寒くても外に出て冷えを体に刺激として入れることが大事ですね。

━━日中は体に自然の寒さを感じさせる、でも寝る前はちゃんと手と足を温めるということですね。

杉田さん)はい。そのように自律神経の刺激をうまく日常に取り入れながら、切り替えるタイミングを作ることが大事だと思います。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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