アンチエイジング医学の第一人者・満尾正さんは、現代の日本人の食生活には必須脂肪酸の一種「オメガ3脂肪酸」が不足していると警鐘を鳴らす。そもそも脂肪酸とは何なのか、オメガ3脂肪酸が不足すると体にどんな悪影響があるのか、オメガ3脂肪酸を効率的に摂取するには何を食べたら良いのか━━。日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。
<満尾正さんプロフィール>
満尾クリニック院長。ハーバード大学で栄養学を習得した日本のアンチエイジング医学の第一人者。1982年、北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、キレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを2002年赤坂に開設、2005年広尾に移転、現在に至る。著書に「食べる投資」アチーブメント社など多数。
「すべてのアブラが太る」は間違い!大切なのはアブラの種類

━━アブラというと「太る」というイメージがあるのですが、太りにくいアブラというものがあるんですか。
最近の研究では、すべてのアブラが太ってしまうわけではないことがわかっています。たとえば、皆さんがよくご存じの「MCTオイル」がそうです。

中鎖脂肪酸油と呼ばれるグループのアブラですが、これは一般的なアブラよりも体に溜まらずすぐ燃焼するため、体重増加につながりにくいと知られています。
━━中鎖脂肪酸は、すぐ燃焼するなら積極的に摂った方がいいんでしょうか。
もちろん、摂ることはマイナスにはならないと思います。しかし、人間はMCTオイルだけでは生きていけません。体内で合成ができない「必須脂肪酸」を食べ物から適量取る必要があります。
現代人は必須脂肪酸の一種「アラキドン酸」を摂り過ぎている

━━必須脂肪酸はアブラからできるものなんですか。
はい。よく知られているのは「オメガ6脂肪酸(アラキドン酸)」ですが、現代人のほとんどがこのアラキドン酸を摂りすぎている状態なんです。

━━ではアブラが「体に良くない」「太る」と言われてるのは、アラキドン酸を摂りすぎていることを指しているのでしょうか。
おっしゃるとおりです。そこに美味しいドーナツや甘いものなどの「糖質」が入ってくると、太りやすくなってしまいます。「おいしいものには罠がある」とよく言いますよね。
体にとってアブラは必要なんですが、適量に抑えることがとても重要です。
炎症を抑える必須脂肪酸「オメガ3脂肪酸」をもっと摂ろう

━━体には必要なタイプのアブラがあるということですか。
はい。アラキドン酸は必須脂肪酸の一つですから、適量を取らないといけません。そして、現代人にとってさらに重要なアブラは「オメガ3脂肪酸」です。

「オメガ3脂肪酸」はいわゆる青魚に多く含まれているアブラです。体の炎症を抑えてくれるとても重要なアブラであることが知られています。
━━オメガ3脂肪酸には、いろいろな種類があるんですか。
皆さんがよくご存じの「EPA」「DHA」は、青魚に含まれている代表的なオメガ3脂肪酸です。

また、最近よく話題になるアマニ油やえごま油にも「α-リノレン酸」というオメガ3脂肪酸が含まれています。
そもそも脂肪酸とはグリセリンと一緒に脂肪を構成するパーツ

━━そもそも脂肪と脂肪酸はどう違うんでしょうか。「脂肪」という言葉は日常生活でよく使うんですけど「脂肪酸」はあまり使わないなと思いまして。
脂肪酸は、脂肪という大きな塊を作るためのパーツに当たります。「グリセリン」という脂肪酸をつなぎとめておくパーツがあるんですが、そのグリセリンと脂肪酸が3カ所で繋がったものを総称して脂肪と呼びます。

グリセリンにくっついてる脂肪酸の種類によって、脂肪の性質や名前が変わってくるということです。
グリーンランドの調査で判明!オメガ3脂肪酸と病気の関係性

オメガ3脂肪酸については、1970年代のグリーンランド(デンマーク自治領)の疫学調査で非常に興味深いことがわかりました。
グリーンランドには、先住民族イヌイットが住んでいます。彼らの当時の主食は、アザラシの生肉でした。そしてデンマーク本土に住む国民と比較すると、心筋梗塞や皮膚病の乾癬(かんせん)、気管支喘息などの病気が少なかったんです。

その原因を調べたところ、どうやらオメガ3脂肪酸の摂取量の違いが、グリーンランドと本土の病気の分布の違いに繋がっていることがわかりました。
若い世代の魚離れが深刻…EPAの血中濃度は高齢者の半分程度

━━日本人も、これから食生活を変えてオメガ3脂肪酸を摂るようにすると、病気の状況が変わってくるんでしょうか。
はい、そういうことは昔から知られています。しかし残念なことに、最近は若い方々を中心に「魚離れ」が進んでいます。20代・30代などの若い方にはぜひオメガ3脂肪酸をもっと摂っていただきたいと思っています。

━━若い方はそんなにオメガ3脂肪酸が足りてないんですか。
データを見ると年代別にはっきり差が出ています。20代・30代の方と60代以降の方を比較すると、EPA(オメガ3脂肪酸の一種)の血液中の濃度が、若い方は高齢者の半分しかないんです。

これはもう由々しき問題です。これは当院の外来の初診時の血液データをまとめたデータなんですが、一般的にもいえる傾向だと思います。
魚より肉を食べる現代社会…食卓に取り入れる一工夫が大切

━━では、もっと時代が進むと60代の方の血液中濃度も減る可能性があるということですか。
おっしゃるとおりです。日本全体で魚の摂取量が減ってきていて、反対に肉類の摂取量が増えているんですね。農林水産省のデータでは、2011年ごろに魚介類よりも肉類の摂取量が増えてしまったと言われています。

━━私も生活していてすごく実感します。青魚のように鮮度が落ちやすい食材で料理するのはなかなか難しいと思うんですよね。
そうですよね。あまり味付けしていないサバの水煮缶などを活用していただくと、オメガ3脂肪酸を摂取することはできるんじゃないかなと思います。
オメガ3脂肪酸不足は肌にも影響!和食中心の食事がおすすめ

━━先生のクリニックでも、オメガ3脂肪酸不足の方はいらっしゃいますか。
皮膚のトラブルを持っている方などですね。肌の吹き出物がなかなか治らない方を診察すると、オメガ3脂肪酸不足の方が多々いらっしゃいます。

━━オメガ3脂肪酸は、肌にも関係するんですか。
もちろんです。日本人の肌は非常に細やかだと昔から言われてきました。その理由は、和食中心の生活でオメガ3脂肪酸をいっぱいとることができていたからです。
欧米人の方で年齢とともにどんどん肌が痛みやすくなってくるのは、食べている食品の差、特に脂肪酸の差ではないかと言われています。

━━日本人のキメの細やかな肌という特徴は、これから常識じゃなくなってくるかもしれないんですね。
おっしゃるとおりです。ですから和食中心で生活されるとよろしいと思います。
高血圧・脳梗塞…オメガ3脂肪酸不足は血管の炎症につながる

━━オメガ3脂肪酸の不足というのは、ほかにどんな影響があるんですか。
炎症が起こりやすくなります。スポーツをされている方は、関節のトラブルや肉離れ、筋膜炎など、スポーツに伴う外傷性の炎症が起こりやすくなることがレポートされています。

━━怪我以外の炎症にも、オメガ3脂肪酸不足が影響するんでしょうか。
もちろんです。イヌイットの方々に心筋梗塞が少ないのは、血管の壁の炎症が少ないからです。血管の壁が傷ついて炎症を起こすと、そこで詰まってしまうわけです。

━━血管の炎症というと、いろいろな病気につながってくるんじゃないかと思うんですが、ほかにどんなものがありますか。
高血圧や脳梗塞といった影響も出ると思います。ですから、最低でも週2〜3日は、夕食のおかずが魚であってほしいんですね。
最低週2〜3回は魚を食べよう!ときには医薬品での補給も必要

━━なかなか魚をいただくのが難しいんですよね。外食でも、魚を食べられるところよりは肉の方が多いと思います。
うん、そうなってしまいますよね。ジューシーなお肉を食べると幸せな気分になるような仕組みができてます。アブラを食べることで幸せを感じる。だからもっと欲しくなる。これは自然の摂理でもあるわけですね。

最近はありがたいことに医薬品でもEPAやDHAを補給することができるようになってますから、担当の先生に相談して処方してもらってもよろしいと思います。

━━血液検査をしてオメガ3脂肪酸が足りていない方は、青魚・アマニ油・えごま油、そして医薬品などで補うことが必要になってくるということですね。
はい、そういうことですね。
━━次回は、賢いアブラとの付き合い方についてお話をいただきたいと思います。
(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)
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