疲労研究の第一人者・渡辺恭良さんに脳疲労について伺う本シリーズ。第2回は、脳疲労によって起こる心身の症状を中心にインタビューをおこなった。脳疲労の度合いを簡単に測定できるシステムも登場。日本テレビホールディングス・古市幸子が実際に測定した結果を分析すると、脳疲労になる原因と対策が見えてきた。
<渡辺恭良さんプロフィール>
疲労研究の第一人者。京都大学大学院医学研究科修了(医学博士)。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 特命教授、日本疲労学会 理事長、日本リカバリー協会 会長、脳体力振興協会 理事長、Integrated Health Science株式会社 代表取締役 CEO、大阪公立大学健康科学イノベーションセンター 顧問などを務める。大阪バイオサイエンス研究所・名誉所員、大阪私立大学・名誉教授、理化学研究所・名誉研究員。
脳をたくさん使う=脳疲労ではない!全身の調節機能がカギ

━━脳疲労が増えているというお話でしたが、普通の疲労と脳疲労はどう違うんでしょうか。
私たちは脳を使ってたくさんの仕事をやりますが、それによって疲れることを脳疲労といっているわけではありません。
疲労には、身体的疲労と精神的疲労があります。脳は、これらのあらゆる疲労に対して、全身の血流などのいろいろな調節をしているわけです。この脳の調節系が低下している状況が脳疲労です。

脳の調節系が破綻をきたしていると、慢性疲労などのいろいろな問題にもつながります。
ちょっと予想外のことが起こるとバタバタしますよね。それが脳疲労の一番大きな問題です。
決断できない・胃のもたれ…心身にあらわれる脳疲労の症状

━━脳疲労は、どんな症状として現れるんでしょうか。
頭に霧がかかったような状態を指す「Brain Fog(ブレインフォグ)」という言葉がよく使われますね。考えたことがまとまらなかったり、たくさんの選択肢があるときに決断がなかなかできなかったりします。

━━それでいうと、すぐに安易なほうに決めてしまうことも、逆に脳疲労しているのかなと思うんですが。
自分が動きやすい方向に動くことを選択するのは、決して間違ってはいないです。それは脳疲労を和らげる1つの方策ですね。ただし、その結果にくよくよするとまた問題が起こります。

━━なるほど。脳疲労で体に出てくる症状はありますか。
自律神経のバランスなどが悪くなってくるので、消化が遅くなって胃がもたれたり、だるさを感じたりします。

━━ストレスが溜まってるときに胃腸の調子が悪くなることがあるんですけれど、それと似たような感じでしょうか。
それも明らかに脳疲労の一部ですね。
━━ストレスが溜まり続けると脳疲労が起きるんですね。
脳疲労は見える時代に!「PET」で炎症部分が一目瞭然

━━脳疲労って、なかなかわかりづらいですよね。どうやったらわかるんでしょうか。
PET(ポジトロンエミッショントモグラフィー)という機械を使って、脳の中にどの程度の炎症が起こっているか見ることができるんですよ。

これはかなり厳しい慢性疲労に陥った人の脳です。黄色の部分に炎症が起こっています。免疫細胞が活性化されて問題のある部分に集まってきている状況が、炎症なんです。
━━脳疲労はもう見える時代になったということですね。
小中学生にも広がる脳疲労…学習意欲の低下にも関係している

━━前回「脳疲労が若者に増えている」というお話がありましたが、どのくらい増えているんでしょうか。
小学校、中学校、高校、すべてにおいて増えてきています。現代の子どもたちは非常に忙しいんですね。学校だけではなく塾や習い事にも行きますし、受験・コンテストなどもたくさんあります。

私が子どもだった頃と一番違うと思うのは、1日が終わって寝る前に「ああ、今日は楽しかったな」と思えることを一つもしていない子どもたちが多いんですよ。
これは子どもの学習意欲と疲労の関係を半年ずつ5回程度追跡した調査結果なんですが、疲労が強くなった子どもの学習意欲が非常に落ちてきています。

意欲と疲労は反比例の関係にありまして、意欲が高くて疲労が少ない子どもをみると、早寝早起き・朝ごはんを食べるなどの規則正しい生活、そして家族や先生に褒められる経験が大事だということがわかってきました。

━━子どもが脳疲労を起こすと学習意欲が落ちるということは、大人の場合は脳疲労によって労働意欲の低下につながるんでしょうか。
はい、そうですね。
脳疲労度が簡単に測れる!疲労ストレス測定システムVM600

━━脳疲労は今や測って数値化できるということで、「疲労ストレス測定システムVM600」が開発されたそうですね。

心拍数は自律神経が調節しているので、心拍変動を解析すると脳疲労度の測定に使えるということで、開発されました。
十分寝たのにストレス!? 測定で脳疲労の原因と対策が見えた

━━私、土日休みで月曜日に「出社後」「お昼休憩後」「夕方の打ち合わせ後」の3回、計測してみました。まず出社後について、私の脳疲労度はどうでしょうか。
脳疲労度はそんなに大きくはないんですが、ちょっとありますよね。問題はストレスのほうです。

横軸は交感神経系と副交感神経系のバランスの指標なんですが、それがどちらかというと交感神経系に寄っていますね。前の日のリラックスが十分でなかったのか、あるいはマンデーブルーなのか。少しストレスが強いです。
仕事に向けて交感神経の働きが強くなるのは良いんですが、通常は交感神経系とともに副交感神経系も一緒についてきて、バランスがある程度保たれるんです。
━━土日は睡眠時間が取れたので自分では大丈夫かなと思ったんですが、直前までの満員電車のストレスがあるかもしれません。
それはありますね。

━━次は、お昼ごはんを食べた後、午後2時ぐらいのデータです。
これは素晴らしいです。脳疲労がほとんどないですし、ストレスもかなり良くなっています。脳疲労がこれだけ少ない人は、脳が集中できる状態にあります。

━━この日は自分で作ってきたお弁当を食べたんですけど、いい感じにお弁当を作れてちょっと嬉しかったんです。
そういうことがすごく大事です。脳疲労には、自分の好きなものや成功体験などがものすごく効いてきます。

━━では、長めの打ち合わせを終えた後の夕方のデータです。
ちょっと疲れが出ていますが、偏差値の上限は超えてないですね。クタクタになると、紫の辺りまで上がってしまいますから。

古市さんのこの1日は、朝はストレスが見られましたが、後の状況は非常に良いです。
━━よかった。ちょっと安心しました。
今、常に脳疲労を計測できるリングも作っています。いろいろなものを整えて自分の最適な状況に持っていくことができる、そういう時代が来ると思いますね。
脳疲労を回復させるカギは「セロトニン」と「オキシトシン」

━━脳疲労の回復の鍵となるのは何でしょうか。
幸せホルモンといわれる「セロトニン」と「オキシトシン」です。セロトニンは、癒し系の神経系のなかで一番中心になって動いています。

オキシトシンは、愛情の対象や自分の好きなことに対して出ます。さきほど挙げられた、自分の気持ちの入ったお弁当もそうですね。

セロトニンやオキシトシンがちゃんと働いてくれると、仕事を一生懸命やっているときも副交感神経が交感神経に追随して、自律神経のバランスを整えてくれてます。だから、抜き差しならない状態に陥らないようにしてくれるんですね。
━━自分の機嫌を自分で取れる大人になるためにも、次回はその幸せホルモンの出し方について詳しく伺っていきたいと思います。
(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)
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