日本のアンチエイジング医学の第一人者・満尾正先生に、健康診断の数値の見方を教えてもらう本シリーズ。前回の肝機能編に続き、今回のテーマは「コレステロール」。先生によると、健康状態を判断するには悪玉コレステロールの数値以外にも見るべき箇所があるという。日本テレビホールディングス・古市幸子が詳しく話を伺った。
<満尾正さんプロフィール>
満尾クリニック院長。ハーバード大学で栄養学を習得した日本のアンチエイジング医学の第一人者。1982年、北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、キレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを2002年赤坂に開設、2005年広尾に移転、現在に至る。著書に「食べる投資」アチーブメント社など多数。
悪玉コレステロールは低ければ低いほど良いわけではない!

━━前回に引き続き、私の上司(50代男性)の健康診断の数値を見てみたいと思います。LDL(悪玉)コレステロールは基準値を超えている年もあるんですが、これはどう見たら良いでしょうか。

LDL(悪玉)コレステロールの基準値は、検査を行っている病院によって考え方が違うんですよね。この場合は上限値が119ですが、病院によっては140にしているところもあります。
大事なことは、LDL(悪玉)コレステロールは低ければ低いほど良いわけではないということです。
━━基準値が上限だけでなく下限も書いてありますもんね。
そもそもLDL(悪玉)コレステロールは、コレステロールや中性脂肪を運んでいる運搬トラックのことなんですね。そしてHDL(善玉)コレステロールは、全身の組織で余ったコレステロールや中性脂肪を肝臓に戻すトラックなんです。
LDL(悪玉)コレステロール・HDL(善玉)コレステロール・中性脂肪、この3つの値を見て健康状態を判断しましょう。

━━ 一つの項目では判断ができないんでしょうか。
そうですね。単に「数値が高いからすぐに薬を飲まなきゃいけない」など、そういう問題ではないということですね。
コレステロールには神経や脳の働きを支える重要な働きがある

━━たしかに、私の上司もとても元気そうなんですよ。LDL(悪玉)コレステロールの数値が高くてもそんな心配しなくていいんですかね。
そうですね。なぜかというと、コレステロールにはものすごく大事な働きがあるからです。細胞の膜を作ったり、神経の働きを支えたり、脳細胞の働きを支えたりですね。

男性ホルモンや女性ホルモン、ストレスに打ち勝つためのホルモンの原料でもあります。さらにもっと大事なのは、ビタミンDの原料もこのコレステロールなんです。

ですからコレステロールを下げすぎてしまうと、このような体の働きが失われてしまう可能性があるんです。
高コレステロールを防ぐ「一次予防」と「二次予防」の考え方

高コレステロールの予防を考えるときは、大きく「一次予防」と「二次予防」に分けます。一次予防は、心臓病の経験がない一般健常人の方が、生活習慣を改めることで数値をコントロールすることです。

二次予防は、心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化性の血管疾患を経験している人が対象で、より厳格にコレステロールの値をコントロールする必要があります。

━━やっぱりそうしないと血管が詰まりやすくなってしまうんですか。
そういうことです。ですから、一次予防なのか二次予防なのかはすごく大事な要素です。
動脈硬化につながる可能性あり!?高すぎる中性脂肪のリスク

━━いろいろな数値を見てきているなかで「中性脂肪」も気になるのですが、これは何なんでしょうか。
糖分や脂質が腸の中に入って吸収されるときに、中性脂肪の形で肝臓に運ばれるんです。たとえばアルコールを飲んだり果物を食べたりしたときに、肝臓で中性脂肪が作られます。

━━中性脂肪は基準値が30〜149になっているので結構幅は広めなのかなと思うんですが、私の上司は2023年の数値がかなり高かったようで、201になっています。

200はまだマシかもしれませんね。うちの患者さんの中には600とか、ひどいと1000くらいの方もいらっしゃいます。
━━中性脂肪の数値が上がりすぎると、体にはどんな症状が出るんでしょうか。
中性脂肪による炎症が動脈硬化の原因になるんじゃないかと言われています。しかしLDL(悪玉)コレステロールほどダイレクトな影響は確認されてないので、比較的緩やかに考えていただいていいと思います。
中性脂肪が低すぎるのも良くない!ビタミンB不足の可能性も

━━中性脂肪については、基準値の下限30を下回っているとどうなりますか。
そもそも下限30はかなり低いほうで、通常は下限値を50としている施設が多いと思います。
中性脂肪は肝臓で作られています。中性脂肪が50を下回っている場合、肝臓の働きが遅い可能性が考えられますね。肝臓が中性脂肪を作るスピードは、前回お話した「γ(ガンマ)-GTP」(肝臓や胆管の細胞で生成される酵素で、主に肝障害を早期に検知する指標)の値で決まってきます。

γ-GTPの値が1桁ぐらいの方は中性脂肪も50を下回っている方が多いです。そういう場合はビタミンB不足を考えなきゃいけないですね。
無理な減量で善玉が減る?実例でみる数値バランスの重要性

━━私の上司の値を見てみますと、LDL(悪玉)コレステロールは119で少し高めです。HDL(善玉)コレステロールは41で、これは全然大丈夫でしょうか。
前回はHDL(善玉)コレステロールが57もありますよね。これは男性ではかなり高い方です。しかし、今回は41でどん底まで落ちてしまっている。たぶん無理な減量をされたんだと思うんですが、非常にもったいないですね。

━━そうか、HDL(善玉)コレステロールは下げたくないんですもんね。
さらに中性脂肪をみると、LDL(悪玉)コレステロール値が162だった前回は92しかありませんが、今回はLDL(悪玉)コレステロール値が119で中性脂肪が113と、中性脂肪がちょっと上がってしまっているわけですね。
HDL(善玉)コレステロールと中性脂肪の比率は、前の方が良かったということになります。

「LDL(悪玉)コレステロール値が下がったから全部OK」と手放しでは喜べないと思いますね。全体のバランスを考えると、HDL(善玉)コレステロールが減ったことはちょっとマイナスです。上司の方には散歩のような軽い運動をコンスタントに行うことをおすすめしたいです。
女性は善玉が高い傾向あり!しかし閉経の前後で数値は変わる

━━コレステロールを気にするのはどちらかというと中年男性が多いと思っていて、女性の場合はあまりコレステロールの話をしないと思うんですが。
女性はHDL(善玉)コレステロールが高い傾向があります。これはホルモンの影響だろうと言われています。男性は、飲み食いやアルコールの量が多いことが影響しているんではないでしょうか。しかし女性も、閉経後は男性と似たような傾向を示す方もいらっしゃいます。

━━じゃあ女性の場合は、閉経前と閉経後で数字がガラッと変わってしまうんですか。
ええ。LDL(悪玉)コレステロール値でいうと、閉経前は150まで、60歳を超えてくると180ぐらいまでOKという先生もいるみたいです。

ですから、人間ドック・健康診断では経時的な変化を見ることが大事です。「ああいう生活をしているとこうなるんだ」と自分でわかるので、ものすごく説得力があると思います。
若者でも悪玉コレステロールが増える「家族性高脂血症」

━━この番組の20代の女性スタッフで、去年LDL(悪玉)コレステロール値が221あって、薬を処方してもらって今年は175になった人がいるんですが、20代女性で175は高いんでしょうか。
遺伝的にLDL(悪玉)コレステロールが増えやすい方もいますね。家族性高脂血症の場合には確実に薬が必要になります。

昔と違って今は非常に良い薬が出てますので、専門の先生にしっかり指導してもらうことが良いと思います。
卵を食べても悪玉は増えない!でも卵アレルギーには要注意

━━30代の男性スタッフからも質問が来ています。「LDL(悪玉)コレステロールの数値を下げるために卵は控えた方が良いと聞きますが、本当でしょうか」。
それは嘘です。どんなに食べてもLDL(悪玉)コレステロールは増えません。ちゃんとした臨床試験も行われています。
ただし卵に関しては、コレステロールから話が外れるんですが、アレルギーを持っている方がいらっしゃいます。特にタンパク質系のものを毎日同じようにおかずで食べていると、体が反応を起こす場合があるんですね。

ですから私たちのご先祖は「季節のものを食べなさい」と言ってきました。「フードローテーション」ですね。

今の時代は一年中同じようなものを食べる環境になってしまったのでローテーションができない。それによっていろいろなアレルギーの問題が起きていると、アレルギー専門の先生が言っています。

━━食べ過ぎると急にアレルギーになっちゃうこともあるんですか。
いえ、急ではなくじわじわと反応が出るんです。日本では認められていないんですが、アメリカでは「遅延型アレルギー反応」という考え方があって、その検査もあります。
3つの数値を良くするには「食事」と「運動」の基本を大切に

━━LDL(悪玉)コレステロール・HDL(善玉)コレステロール・中性脂肪の3つをセットで良くするにはどうしたら良いでしょうか。
ありきたりですけれども、生活・食事の習慣を正す、適度な運動をすることです。

━━ 一般的な健康診断の検査項目は10項目ほどと言われていますが、コンディショニングを考えるにあたってこの項目の設定は十分でしょうか。
企業の健康診断は、病気を探す目的の検査です。ですからコンディショニングのためには、パフォーマンスを上げるような、もう一歩踏み込んだ検査が必要だと思います。
━━では次回は、攻めのコンディショニングのために重要な検査について、先生に提案をしていただきます。
(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)
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