国際的に活躍する医学博士・根來さんに、4回にわたって腎臓と健康の関係について話を伺う本シリーズ。第2回のテーマは「腎臓と毛細血管」。根來さんによると、毛細血管は腎臓の機能だけでなく、全身の老化にも深く関わっているという。腎臓の機能を維持するうえで毛細血管がなぜ重要なのか、日本テレビホールディングス・古市幸子が迫った。

<根來秀行さんプロフィール>
ハーバード大学およびソルボンヌ大学医学部客員教授。内科学、循環器病学、抗加齢医学、睡眠医学を専門とし、多岐にわたる研究分野で国際的に活躍する。日本抗加齢医学会評議員。日本テレビ『世界一受けたい授業』などのメディア出演のほか、『100年はたらく腎臓をつくる! 「腎トレ」ウォーキング』(青春出版社)、『老化は腎臓で食い止める! 腎機能を自分で強化する名医のワザ』(宝島社)など著書多数。

毛細血管で老化の度合いがわかる!?腎臓の健康とも深く関係

━━先生、第2回は毛細血管と腎臓の深い関係についてですね。

はい、そうですね。毛細血管の研究は、最近世界中で進んでいます。僕の研究室でも「A man is as old as his capillaries(毛細血管とともに人は老いる)」というスローガンを掲げて積極的に研究を進めています。

━━毛細血管を見ると老化の度合いがわかるということですか。

そうですね。テクノロジーが進化して、遺伝子的なところから毛細血管の状態を評価しやすくなってきているということも、背景にはあります。

毛細血管はいわば体内のインフラ!5つの役割で健康に関与

そもそもの毛細血管の説明をさせていただくと、毛細血管は、髪の毛の10分の1ぐらいの非常に細い血管です。

血液は大動脈→細動脈→毛細血管→細静脈→大静脈とぐるぐる回っているのですが、毛細血管は動脈と静脈系の間にあって、全身に張り巡らされています。

大動脈や冠動脈などの太い血管は詰まったり破れたりするとすぐに命に関わるので、皆さん意識が高いと思います。研究も、長年これらにフォーカスして進んできました。

それに比べて毛細血管は小さくて、一見健康への影響はあまり感じないと思うんです。ただ血管の量をみると、実は99%が毛細血管なんですよ。

━━毛細血管って割合でいうとそんなに多いんですか。

はい。一人の体の毛細血管をほどいていくと地球2周半分(10万km)の毛細血管が存在するともいわれています。

この毛細血管を介して、全身の細胞に酸素や栄養素を届けたり、二酸化炭素や老廃物を回収したり、ホルモンや免疫細胞を届けたりしているので、「生きていくために必要不可欠なインフラ」というわけです。

そういう意味で、毛細血管なしに人は生きていけないし、毛細血管が人の寿命・健康状態を決めるということです。

腎臓は本体そのものが毛細血管!機能の要として非常に重要

━━腎臓の破壊にも、毛細血管がつながっていくということですか。

そうですね。腎臓の本体そのものが毛細血管といえるくらいです。腎臓の糸球体が毛細血管でできているので、腎臓のろ過・再吸収を毛細血管が最前線で担っているといえます。

━━ほかの臓器とは全然違うんですか。

当然、毛細血管は全身に対して栄養や酸素を運ぶことでエネルギーが作り出されるわけですが、腎臓では臓器の機能の要として重要な役割を担っているということです。

腎臓の糸球体が壊れてしまう…高血糖と活性酸素による悪影響

━━糖尿病で血糖値が高いと腎臓の血管が傷つくというのは、どのような仕組みですか。

毛細血管は、内皮細胞がトンネル状に一層連なっていて、その内皮細胞の外を壁細胞が掴むような形で補強しています。

血糖が高い状態が続くと、内皮細胞に血糖が取り込まれてしまって大量の活性酸素が発生するんですね。

活性酸素は一定量だと外から来た敵と戦う武器として働くんですが、大量に発生すると周辺の細胞や細胞中の核の部分を攻撃して、細胞を壊してしまいます。

細胞が壊れると毛細血管のつなぎ目が緩くなって、補強している壁細胞も劣化して毛細血管がゆるくなるわけです。

そうなると、腎臓のろ過機能が低下して必要なタンパクが体から外に出てしまうわけですね。そして糸球体が壊れていき、どんどん悪循環に陥っていきます。

血管の細胞を傷つける「糖化ヘモグロビン」の増加にも注意

高血糖の状態が続くと、全身に酸素を届ける赤血球のヘモグロビンも糖化してしまって、糖化ヘモグロビン(HbA1c)ができます。健康診断でも、HbA1cの数値がある程度高くなると糖尿病の気があるといわれますよね。

この糖化ヘモグロビンが増えると、赤血球が変形しにくくなるんです。

赤血球は毛細血管の内腔より少し大きめなので、普段は少し折り畳まれた状態で全身の毛細血管を通過しています。

しかしヘモグロビンが糖化ヘモグロビンになると、変形しにくくなっているので毛細血管内をしなやかに通過できなくなったり、血管に圧がかかって細胞を傷つけてしまったりするんですね。

これが、腎臓病・腎不全・透析の原因疾患として糖尿病が一番多くなっている背景になります。

検査で一目瞭然!細胞が崩れ落ちた「ゴースト血管」の怖さ

━━毛細血管って私たちは普段見ることができないですが、最近は毛細血管の様子を見ることができると聞きました。

そうですね。指の甘皮の部分でおこなう毛細血管の検査「毛細血管スコープ」というものがあります。

毛細血管はあらゆる部分に存在しますが、甘皮部分は特に毛細血管の全貌が見やすいんです。その甘皮部分を観察して全身の現状を把握するという研究がおこなわれています。

この画像は健康な状態の毛細血管です。綺麗な直線でヘアピン状のカーブもあって、壁の形も揃っていて太くなっていません。

ところが、血糖値が高い状態が続くと壁の部分が崩れたり、さらに放置すると内皮細胞がだんだん原型を保てなくなってバラバラになったりします。

さらに悪化すると毛細血管の内皮細胞が崩れ落ち始めて、血流がスムーズにいかなくなります。

この画像は、内容物が外に漏れ出ていて、少しモヤッとしています。幽霊のように見えるので「ゴースト血管」とも呼ばれています。

このような状態になると、細胞に栄養や赤血球、酸素などを運ぶインフラがなくなってしまうので、だんだん体に不調をきたすことになります。

ゴースト血管は改善できる!日頃の血糖値コントロールが大切

━━血管がゴースト状になっているのは、血管が消えてきているということですか。

この画像の状態だと血管らしきものは一応見えるので、血流を良くしたり生活習慣を改めたりしていくと、だんだん復活していきます。

糖尿病を本質的に治すことは難しいんですが、血糖が高い状態を早めに判定して、食生活や生活習慣を改善して血糖値を早めに下げられれば、毛細血管の負担も下げられます。

腎臓に関していうと、腎臓病から腎不全になるのを遅らせたり防いだりできる可能性はあります。

睡眠・運動不足…毛細血管は年齢に関係なく生活習慣で減少

━━ゴースト状の血管になるのは、やはり年齢が上の方が多いんですか。

健康に過ごしていても、何も対策をしていないと、60代になると20代に比べて4割ぐらいの血管が減ってしまっています。毛細血管のゴースト化が起きている部分も結構あると思います。

━━じゃあ、若い方は比較的大丈夫ですか。

基本的にはそうですね。ただ若くても睡眠を極端に削ったり運動しなかったりすると良くないです。

睡眠中に全身の毛細血管が緩んで全身に栄養が届くので体をリカバーできるんです。その睡眠時間が減ると、毛細血管も劣化しやすくなります。

━━そんなに生活習慣が影響しているんですか。

大きく影響します。

━━血糖値のコントロールもさることながら、血管を元気にする方法をぜひ伺いたいと思います。次回は、毛細血管を増やして腎臓を元気にする具体的な方法について伺います。

(『コンディショニングイノベーションLab公式』より抜粋・再構成)


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